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「どうやら、レングストン家は頼もしい味方をゲットしたみたいだねー。そういう貴重な人材は大事にしてあげなくちゃダメだよー」
試合終了後、嫌がるエーレをがっちりホールドして無理矢理頭をなでながらコルティナが言う。
「そんな事より、なでるのをやめなさい!」
じたばたしながら抵抗するエーレ。
「今大会の陰の功労者を、『そんな事』呼ばわりはひどいなー。あまり冷遇してる様なら、ウチがその人をもらっちゃうけど、いいのー?」
「願ったり叶ったりだわ」
「うふふ、ツンデレの模範解答だねー」
「誰がツンデレよ!」
そんな二人のやりとりも、当の陰の功労者ことエーヴィヒは、観客席から余す事なく喜々として録画していたのは言うまでもない。
その後エーレは決勝戦を制して優勝を決め、小、中学生の部と立て続けに外部優勝を許したレングストン家も、ようやく高校生の部に来てほっと一息つく格好となった。
「優勝した事を嬉しく思いますが、それ以上に内部外部を問わず全国から集まった多くの強豪と、良い試合が出来た事を誇りに感じています。ありがとうございました」
優勝インタビューに、凛とした表情で真面目に答えるエーレ。
どこぞのふわふわお嬢様の様にふざけた一人漫談などは一切やらないものの、ちっちゃな子供が精一杯大人びた口調で喋っている様子に、ついほのぼのとした笑みがこぼれる観客達。
「どんなお笑い芸人も、子供と美人と動物には敵わないからねー」
「だから、あんたお笑い芸人じゃないでしょうに」
インタビューを見て感想を述べるふわふわお嬢様に、ララメンテ家の仲間がツッコミを入れる。
「今日は負けたけど、明日から本気出して頑張ろーね」
「いや、皆今日も割と本気だったんだけど」
「レングストン家には間違いなくデータ分析に強い人が付いてるよ。今日の試合もすぐに分析して、次のウチの大会にフィードバックして来ると思うよー」
「そんな事が分かるの?」
「分かるよー。試合中のレングストン家の選手の背後に、何か見えなかったー?」
「見えないわよ。背後霊じゃあるまいし」
「心の目で見るんだよー。たとえばー、あなたの右肩の辺りに何かいる気配しない?」
「やめて、そういう話は苦手なんだから!」
「じー」
「凝視しないで!」
「あー、これはお祓いが必要かもしれませんね」
「急に真顔になって、不吉な事言わないで!」
「大丈夫、いい霊だから、安心してー」
「だったら、何で祓う必要があるのよ!」
「うふふ、冗談、冗談。でも面白いから、今日の反省会は怪談大会やらない?」
「それ、もはや反省会じゃないでしょ!」
コルティナが仲間達と何やら言い争っている様子を見て、
「早速、今日の試合の問題点を議論してるのかな。ふわふわしている様でいて、やっぱり真面目な所もあるんだなあ」
感心するミノン。
「ふふふ、コルティナはそんな野暮な事はしませんよ。その逆で、場を和ませようとしているのでしょう」
真意を見抜くシェルシェ。
その二人をよそに、パティは双眼鏡でひたすらちっちゃなエーレを追い続けていた。




