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RPGを夢中になって遊ぶ子供達は、時々手を休め、ふとこんな事を考える。
レベルMAX、最強装備の勇者が乗り込んで来た時、魔王の城の住人達は一体どんな気持ちだろう。
抵抗も空しく倒されて行くモンスター。略奪される宝物。要所要所を必死に防衛するも、ちょっと長めの機械的作業にしか思われず、あっさり突破される中ボス達。
次々と届く悲惨な報告に、真綿で首を絞められる思いの魔王。
全てを蹂躙し尽くした後で玉座の間に現れた冷酷無比な勇者に対し、勝ち目はないと知りつつも、降伏は絶対許されない。
たとえ許されるとしても、
「これまで絶望的な状況下で戦い、無残に散って行った部下達の事を思えば、自分一人がおめおめと生き残る訳には行かない」
と、悲愴な覚悟で、魔王は最後の決戦に臨まねばならないのだ。
話を元に戻すと、レングストン家の剣術大会、小学生女子の部の決勝まで勝ち上がったティーフ・エルンストが、まさにそんな魔王の心境だった。
リーチとパワーを併せ持った体格に恵まれ、優勝候補と見做されていたティーフは、いつもの大会なら、決勝戦まで残ったのをかなり誇りに思った事だろうが、今回その誇りには、「外部からの侵略者からレングストン家を守る」、という使命感がもれなくセットで付いて来る。
しかも、その侵略者たるや、剣術業界一位のマントノン家の大会優勝者シェルシェ・マントノンである。無茶振りもいい所であった。
「レングストン家がどうのこうのとか、考えなくていいから。あくまでも自分の為に戦いなさいよ」
プレッシャーでガチガチになってしまったティーフを心配して、エーレが声を掛けても、
「分かってる。何としても、ここで食い止めないと」
あさっての方向を見つめながら、見当外れの返事をするティーフ。話がまるでかみ合っていない。
エーレはため息をつき、
「ま、いいわ。決勝戦、頑張ってね」
ティーフの背中を軽く叩いて、決戦の場に送り出した。
ツインテールのちっちゃいお嬢様エーレと、短髪で体格がいい男の子の様な外見のティーフとの、この短いやりとりを遠巻きに見ていたレングストン門下の一部の少女達の中には、よからぬ妄想に百合の花を咲かせる者もいたが、この物語とは全く関係ないので、あえて詳しくは触れない事にする。
そんな思春期の入口にいる少女の多感な想いなど薬にもしたくない戦闘狂が、妖しい笑みを浮かべてティーフを待ち構えているのだ。




