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先のマントノン家の大会で見せた技の冴えをそのままに、レングストン家の大会でもふわふわとした最小限の動きで勝ち上がって行く、ララメンテ家のコルティナ。
と、いうのが大方の予想であったが、実際にはマントノン家の大会よりも、どことなく苦戦している様子がコルティナの試合に見られ、
「コルティナはこの前の大会より、勝つまでに手間取ってないか?」
「それだけ相手に食い下がられてるって事だろう。レングストン家の選手も、自分の所の大会だから必死なんだな」
「でもやっぱりあのふわふわお嬢様が負ける気はしねえよ。ちっちゃなエーレ以外には」
観客達がコルティナの試合にやや違和感を覚える一方、ちっちゃなエーレはマントノン家の大会の時以上に気合を入れ、期待通りその二刀流で対戦相手を次々と瞬殺していき、
「『レングストン家の平和はこの私が守るわ!』って感じだな」
「出演してるCM的には、『お菓子メーカーの回し者め! アウフヴェルツに代わっておしおきよ!』って感じかも」
「いっそ、『ふわふわ魔女』の衣装を着たコルティナと『動物着ぐるみパジャマ』を着て戦ってくれないかな。子供と俺達が喜ぶ」
ちっちゃなエーレのファンである大きなお友達の妄想も、剣術とは全く関係ない方向へ捗っていく。
この二大スターの活躍が喝采を博している陰で、レングストン家の他の選手達が、マントノン家、ララメンテ家の選手達を地味に圧倒する場面も多かったのだが、大半の観客達にとっては、「遅かれ早かれ盤上から消える運命の駒同士の潰し合い」としか思われていない。
しかし少数ではあるが、そんな地味な試合が気になる観客も、もちろんいた。
「レングストン家の選手達は、ウチの大会の時より、動きに無駄がなくなってる気がするんだが」
そんな観客の一人、ミノンが大ざっぱな感想を述べると、
「ウチの大会で得たデータを分析して対策を立てたのかしら。コルティナ程ではないにせよ、レングストン家の高校生の部には分析の上手い人がいるみたいね」
隣にいたパティがそれに答え、
「ふふふ、あるいは、外部の分析のプロが手伝っているのかもしれませんね。CMの仕事がきっかけで、エーレにアウフヴェルツ家の三男が急接近しているという情報もあります」
ミノンを挟んで反対側にいたシェルシェが、微笑みながら双眼鏡を覗き込み、
「観客席のあちこちに、小型ながらも高性能の最新型ビデオカメラで録画している猛者がいますが、ただの趣味でやっている様には見えません。何よりその内の一人が、噂のアウフヴェルツ家の三男ですから」
「どこだ? あ、あいつか。あんまり剣術と縁のなさそうな優男だな」
「私のエーレにちょっかいを出すとはいい度胸してますね。きっとロリコンに違いありません。幼女を襲う前に逮捕してもらわないと」
シェルシェが見ている方向に双眼鏡を向けたミノンとパティが、割と失礼な事を言う。特に後者は、自分を棚に上げるにも程があった。
「ふふふ、CMに出演した事で、エーレは図らずも心強い味方を得たのかもしれません」
エーレ本人以外からの評価が高いアウフヴェルツの三男だった。