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今やCMでお馴染みの美少女剣士達が出場した、小、中、高の部が巨大な会場で大いに盛り上がった後、規模の小さい会場に場所を移して一般の部が地味に行われ、その年のマントノン家の剣術全国大会は無事に終了した。
その後すぐに、美少女剣士達の活躍に重点を置いて編集された大会のダイジェストがテレビで放送され、これが中々の高視聴率を獲得し、エディリアにおける武芸ブーム衰退の中、剣術が「やる」人達だけでなく「観て楽しむ」人達によって支持されている、という現況が改めて浮き彫りとなる。
「羨ましいよなあ。ウチもああいう風に全国大会をやってスター選手を輩出すれば、盛り上がるだろうに」
一方、武芸ブーム衰退の影響をモロに食らい、不景気の真っただ中で逆風に耐えている格闘界の関係者達は、ショーウインドウに張り付いてトランペットを見つめる貧しい少年の様にそのテレビ番組に見入っていた。
「だが、あんな大規模な全国大会をやるだけの金はない」
「初手からつまずいてるよな。あんな会場を一日借りる資金があったら、俺達全員が何日食えるか」
「この世界は、『金がある所に金が集まり、金がない所から金が逃げて行く』様に出来てるんだよ。格差社会がなくならない訳さ」
こういう時にありがちな、「何もかも社会が悪い」、という結論に向かってまっしぐらな格闘界関係者達。
「だが、もし十分な資金があったとしても、ルールを統一しなきゃ試合が出来ないだろ」
「だからこうして忙しい中集まって、それを相談してるんじゃねえか」
「何言ってやがる、忙しかったらこんな所には来ねえよ。来てるのは道場が繁盛してなくて暇だからだ」
自虐的に笑う一同。
「剣術は三家とも、細かい違いはあれ、ルールはほぼ一緒だからいいよな」
「大会の剣術はな。実際はもっと色々な試合形式があるが、競技人口が多くないからやらないだけで」
「俺達も統一ルールの制定に当たっては、自分の流派にこだわっちゃいけないな。妥協する事が肝心だ」
だが、いざルールを決めようとすると、
「素手による顔面への攻撃を認めずして、何が打撃系じゃ!」
「いや、普通に危険だろ。試合で死者が続出したらアウトだぜ」
「いっそグローブ着用にするか」
「お前ん所がグローブ着けてやってるから、そう言うんだろ」
「第一、グローブをはめたら組技系が不利だ」
「そこでウチの指の出るグローブですよ」
「結局自流派のゴリ押しじゃねえか」
皆、自分の流派にこだわり過ぎて話がまとまらない始末。
しかしこの情報を人づてに聞いた、剣術の名門マントノン家の当主シェルシェは、
「ふふふ、格闘界の方々は統一ルールによる大会の開催に向けて、積極的に熱い議論を交わしている様ですね」
自身も流派を超えた統一ルールの下での剣術大会を検討しているものの、まだ議論にすらこぎつけていない事もあり、逆に格闘界を羨ましく思っていた。
隣の芝生は青く見えるものである。




