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前々当主クペが心配した通り、その年のマントノン家の剣術全国大会の高校生の部は、外部の強豪エーレとコルティナに、内部の精鋭達が為す術もなくバタバタと倒される展開となる。しかもこの二人、決勝まで対戦しないという最悪の組み合わせ。
観客達はお目当ての二選手の期待通りの活躍を最後まで楽しめるとあって大喜びだが、マントノン家の関係者は、自家の大会が外部の選手を引き立てる場に成り下がった事に、意気消沈気味である。
興行的には、エーレ、コルティナをナマで見たいという観客が押し寄せて満員御礼の大成功であり、これがララメンテ家なら、「勝敗なんかどうでもいい。大黒字ばんざーい!」、と試合内容に関係なく祝杯を上げる所なのだが。
しかし、主催者席に座る現当主シェルシェは、この屈辱的な事態に顔色一つ変える事なく、いつもの様に微笑みをたたえつつ、泰然自若として試合を観戦していた。
「自分の所の選手がボロボロにやられるのを特等席で見せられてるのに、大したもんだぜ。俺だったらテーブル引っくり返して選手に野次飛ばしてるわ」
「迷惑な客だな。まあ、本音を言えば、自分が出場してあの二人とやり合いたい所だろうよ。俺達もその方が面白いんだが」
「ま、今年と来年は辛抱の年だな。二年後に高校生になったミノンが、あの二人に逆襲してくれるのを待つしかないさ」
観客達もシェルシェの心中を察し、この若き女当主にますます畏敬の念を抱いて行く。
「貫録だねー。『役職が人を作る』って、本当だよー」
試合の合間にエーレと話をしていたコルティナが、主催者席に座るシェルシェの方を見ながら言う。
「シェルシェは当主じゃなくても、あんな感じじゃないかしら。『役職が人を作る』んじゃなくて、『人が役職を作る』って感じの方が合ってるかも」
「そうかなー。エーレだって、何かのはずみでレングストン家の当主に就任すれば、お子様扱いされなくなる位の貫録が付くと思うよー」
「誰がお子様よ。それに『何かのはずみ』って、そんな当主就任は嫌過ぎ。でも、そうね、コルティナはララメンテ家の当主に就任しても、今とあまり変わらない様な気がするわ。マイペースのまんまで」
「そうかなー。結構貫録付くと思うよー。暖炉の側で、安楽椅子に座って、膝の上に猫が丸まってて、一緒にウトウトしながら、秘書の報告を聞き流して、万事『よきにはからえ』の一点張り」
「何その田舎のおばあちゃん」
「理想だねー」
「シェルシェが聞いたら、『当主なめんな』って怒られるわよ」
そんな話をしている内に試合の順番が回って来て、二人はそれぞれの試合場へと向かった。




