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「パティは再三の警告にも拘わらず、またエーレに狼藉を働いたので、地下倉庫で反省させています」
マントノン家の屋敷の書斎へ妹のミノンと一緒にやって来た当主シェルシェは、祖父クペに問われる前に、妹パティが来ていない理由を簡潔に説明した。
「またか」
机に両肘を突き、祈る様に組み合わせた手の上に額を乗せ、ため息をつくクぺ。
「はっはっは、パティにも困ったものだ」
全然困っていない様子のミノン。
「『エーレに精神的な揺さぶりを掛ける為に、マントノン家がパティを使って襲撃させたのでは?』、などと問題になれば事ですが、実の所、エーレはこの程度で試合に影響が出る様な剣士ではありません。だからと言ってパティをお咎めなしとする訳には行きませんが」
あくまでも平静を装いつつ淡々と報告するシェルシェ。しかし、どことなくパティへの不安が隠し切れていない。
「高校生の部は実質、エーレとコルティナの一騎討ちになると予想されているからな。残念ながら、あの二人に比肩し得る選手がウチにはいない」
顔を上げたものの、やや浮かない表情のクペ。
「あの二人は去年、まだ中学三年生の時点で、高校生の部でも十分通用する程の強さでしたからね。幸い去年はミノンが中学に上がって自陣を守り抜きましたが」
「それに加えてあの二人の事だ、この一年でさらに強くなっているだろう。外部の強豪に蹂躙される為に、わざわざ大会を開いてやっている様なものだ」
「それはお互い様ですし、大会自体がフェアに運営されている証拠でもあります。内部外部を問わずただ強い者が勝つ、それが武芸大会のあるべき姿です」
「外部選手が勝利出来て、やっと大会の公正さを世に証明出来る、というのもおかしな話だ」
「ふふふ、中学生の部では、レングストン家とララメンテ家の大会の公正さを、完膚なきまでに世に証明してあげなさい、ミノン」
ミノンに怪しく微笑みかけるシェルシェ。
「えーと、とにかく、勝てばいいんだな、勝てば?」
回りくどい話の苦手なミノンが、物事の本質を単純化する。
「そうです」
「でも、高校生の部は悔しいな。シェルシェが出場していればきっと」
「ふふふ、私のなすべき仕事は、大会に出場する事ではなく、大会を運営する事なのですよ」
「大会の時だけでも、そういう事は誰か他の人に任せて、出場出来ないものかなあ」
「では、あなたが当主代理としてこの仕事を引き受けてくれますか、ミノン?」
「ごめん、無理」
「つまりはそういう事です。私は私の職務を遂行します。あなたは何も余計な事は考えず、思う存分戦いなさい」
「それなら得意だ」
屈託なく笑うミノン。
そんな孫娘達のやりとりを微笑ましく見ていたおじいちゃまは、
「どうかね、そろそろ、パティを許してやっては――」
暗闇で正座させられているもう一人の孫娘の身を案じ、
「ダメです」
それを命じた孫娘に笑顔で拒否された。




