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レングストン家の応援団の方でも、この年々パワーアップして行く巨大怪獣ミノンの圧倒的な強さに目を見張りつつ、その試合の一つ一つを食い入る様に観察し、「どこかに付け入る隙はないものか」、と思案に暮れていた。
「あの巨大怪獣はこのまま高校生の部に出ても、全く違和感ないね。一般の部でもいけそう」
どうシミュレーションしても可愛い後輩達に勝ち目がない、と諦めた道場生の一人が呟く。
「体格的には男子の一般の部に出てもおかしくないわね。でも剣術は体格が全てじゃないわ」
そんな弱気な道場生を励ます様に、力強く言い切るエーレ。
「『ちっちゃくても高性能』なエーレが言うと、妙に説得力あるわね」
別の道場生が例のエーレ主演のCMのキャッチコピーを引用して混ぜっ返すと、皆が笑い、重い空気もやや軽くなった。
当のエーレも苦笑しつつ、
「でも正直に言って、今の時点でウチの選手達にミノンに対抗する術はない、って感じね。もちろん最後まで勝負を諦めて欲しくはないけれど」
「ああ、それに今回敗北しようとも、そこから得られる情報もあるだろうし」
昨年のレングストン家の大会でミノンを破って優勝したティーフが言う。
「今年のミノンはあなたから見てどう?」
「それこそ実際にあの場で立ち会ってみないと分からないが」
エーレに問われたティーフは難しい顔になって、腕を組み、
「今は、自分が打ち込まれる姿しか想像出来ない。ミノンは一年前に比べて格段に成長してる」
と答えて、再び場の空気を重くしてしまい、
「あ、でも、その辺も含めてミーティングの時に検討すればいいから。実際に剣を交えたあの子達の証言から、怪獣を倒すヒントが掴めるかもしれないし」
あわててフォローを入れたものの、間の悪い事にちょうどその時、試合場ではミノンがレングストン家の選手に二本先制して勝利し、準決勝進出を決めた所だった。
盛り上がる会場の中、そこだけ「あー」と落胆の声が漏れるレングストン家の応援団。
別に自分の責任ではないのだが、ますますいたたまれなくなったティーフは苦し紛れに隣のエーレに向かって、
「と、ところで、例のアウフヴェルツのストーカーはどうなった? ざっと見た所、どこにも姿が見当たらなかったが」
無理矢理話題の転換を図り、エーレもその心中を察したのか、
「ま、その方が私にとってはありがたい話よ。試合の最中、ずっとこっちを観察されてたかと思うと背筋が寒くなるわ」
そう言って、陽気に笑って見せた。
と、後ろにいた道場生が、身を乗り出してエーレの耳元に口を寄せ、
「あの男の人、来てるわよ。すぐ後ろに」
と囁く。
エーレが恐る恐る後ろを振り返ると、レングストン家の応援団から少し離れた場所に例の変態三男坊エーヴィヒが座っており、ばっちり目が合ってしまった。
爽やかに微笑みかけるエーヴィヒに対し、急速に蒼ざめて急いで前に向き直るエーレ。
「まずいな。今の話を聞かれたか」
心配そうにティーフが言う。
「ちょ、ちょうどミノンが勝って皆がやかましく騒ぎ立ててた所だから、だ、大丈夫よ」
後頭部に熱い視線を感じながら、どぎまぎするエーレ。こう書くとまるで恋する乙女の様だが、エーレの中ではストーカーに怯えるサイコホラーのヒロインの方が近い。
そしてエーレが無駄にどぎまぎしている内に、大会はミノンの優勝で無事幕を閉じた。