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エーレの個人的な憂鬱とは関係なく、大会はその後もパティが難なく勝ち進み、二年連続優勝を果たす事で会場内の盛り上がりは最高潮に達する。
美貌、才能、富、家柄、人気。一つでも持っていればかなり恵まれた人生を送れる要素がてんこ盛りのスターがさらに栄光まで手に入れる様子は、もちろん一部の嫉妬も買ったが、それ以上に多くの人々に夢を与えてもいた。
持たざる人間はしばしば持つ人間に自分の夢を託し、その者が自分の夢を叶えるのを見て、代償的満足を得たがるものである。
会場に足を運んだ数万の人々のそんな思いを、パティという大道芸人は期待通りの形で叶えてしまうのだ。
「スイスイ勝ち進んでくれるから、見ているこっちも気分がいいぜ」
「テレビタレント業が忙しくて剣の腕が鈍ったかと思いきや、益々強くなってるし」
「俺達なんかと違って生まれながらにして特別なんだろうな、ああいうお嬢様は。今度生まれ変わる時はああいう女の子になりてえよ」
「ああいう女の子」になるには、特別な才能を持って特別な環境に生まれる事に加え、お家の栄光の為にその人生を犠牲にする位の覚悟と修練が必要なのだが、そんな事情にまで思いを馳せられる者は少ない。
また、パティもそんな裏の部分を表には出さず、明るく華やかに、そして謙虚に、優勝インタビューに答えていた。
「パティ、今年はデータ分析批判はやらなかったねー。タレント人気で十分お客は呼べるから、イメージを悪くする煽りは控えたのかなー」
観客席からインタビューの様子を見ていたコルティナが言う。
一方、別の場所で見ていたエーレは、
「皆騙されないで! あんな風に外ヅラはよくても、一皮むけば変態だから!」
と、声を大にして叫びたかったが、流石に堪えていた。
そんな事をしたら周囲の仲間達に取り押さえられて、色々と楽しまれてしまう。色々と。
恐る恐る双眼鏡で例の変態三男坊の方を確認すると、予想通り、向こうもしっかりエーレの方に双眼鏡を向けている。
あっちにも変態こっちにも変態。なぜ自分はこうも変態に狙われる縁があるのか。
やや被害妄想気味になるエーレだった。




