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右手の長剣を頭上高く振りかぶり、左手の短剣を前方に突き出して構えるエーレと、一本の剣を中段に構えて相対するシェルシェが、微妙に間合いを調整しつつ、互いに攻撃のタイミングを窺っている。
それはほとんど動きのない静かな睨み合いであったが、その不気味な静けさが、却って見ている者に異様なまでの緊張感を強いていた。
と、突然、シェルシェが前方に跳躍する様に突進し、文字通り目にも止まらぬ速さでエーレの頭部めがけて剣を打ち込むが、エーレはそれを右の長剣で受け、突進の勢いのまま体当たりされつつも、数歩下がって耐え、鍔迫り合いの形になる。
しばしの膠着状態から、互いの剣を弾く様にして両者が離れ、再び間合いを取っての睨み合いに戻る。
もう一度シェルシェが勢いよく突進し、今度は素早くエーレの頭上を打つ事に成功したが、その一瞬前に、エーレも右の長剣をシェルシェの頭上に振り下ろしていた。
審判がエーレに一本を与えると、今大会でこれまで一本も取らせなかったシェルシェに一矢報いたとあって、観客が大いにどよめいた。
「レングストン家の意地を見せたか、ツンデレ」
「ツインテールの二刀流は伊達じゃないな、ツンデレ」
「この調子でもう一本だ、ツンデレ」
「語尾に一々ツンデレって付けるなっ! あんた達はツンデレ村の住人かっ!」
観客席からツンデレ呼ばわりされる事が鬱陶しかったが、こう言い返したいのをぐっと堪え、試合開始位置まで戻るエーレ。
一方、シェルシェに敗れて恐怖を植え付けられた選手達は、このエーレの健闘に勇気付けられ、
「エーレなら、あの恐ろしい魔物を倒してくれるかもしれない」
と、期待を込めて声援を送ったが、試合再開直後、鍔迫り合いから体当たりをかまされ、豪快に引っくり返ったエーレに対し、容赦なくその頭部を打ち据えて一本を奪ったシェルシェを見て、
「下手に一本なんか取るから、魔物の怒りを買ってしまったのよ」
一層恐怖をこじらせてしまった。
当のシェルシェは怒っている訳でもなく、
「ふふふ、一本取ったのは見事でしたが、その後油断しましたね、エーレ。早く目を覚ましてください。私は万全な状態のあなたと戦いたいのですから」
むしろ喜んでいたのだが。魔物っぽく。




