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「シェルシェは、またマントノン家の支部道場の大規模な統廃合に乗り出したみたいだねー」
自分がCM出演する予定のお菓子を大量に持参し、レングストン家に遊びに来ていたコルティナが、エーレに言う。
「一連のCM効果で好調かと思いきや、マントノン家も武芸ブームの衰退の影響からは逃れられなかった様ね」
そう言って、応接室のテーブルの上のパーティー開けにした袋から、スナック菓子を取って口にしたエーレが、
「辛っ、何これ、辛過ぎ!」
あまりの辛さに顔をしかめ、あわてて紅茶を飲もうとするが、こちらはこちらで熱い為、中々上手く飲み込めない。
そんなエーレが難儀している様子を見て、コルティナがふわふわと微笑み、
「うふふ。困ってるエーレは萌えるねー」
「萌えるな!」
エーレはメイドに冷たいミネラルウォーターを持ってこさせ、それを飲んでようやく一息つくと、
「コルティナはこれ大丈夫なの?」
平然とその激辛スナック菓子を食べ続けているコルティナを驚きの目で見た。
「辛くて美味しいよー。お子様にはちょっとキツいかもしれないけどー」
お子様扱いされてムッとしたエーレが、よせばいいのに大量にスナック菓子を取って口に放り込み、涙目になりながらもそれを水で流しこみ、
「中々美味しいじゃない」
そんな風に意地を張ってしまう所がお子様なのだ、という事に気付いていない様子。
「無理しないでこっちのクッキーも食べなよー。甘くて美味しいよー」
「頂くわ」
クッキーの甘みでようやくニコニコ顔に戻るエーレと、その表情の変化を面白そうに見守るコルティナ。
「ところで、レングストン家は支部道場の統廃合はやらないのー?」
「もう少し様子を見る事にしたみたい。『このままエーレがCMで頑張ってくれれば、道場生の数も減少から増加に転じるかもしれない』、なんて言い出す役員もいる始末よ」
「じゃあ、ここは一つ、エーレは着ぐるみを着て頑張らないとねー」
「役員が本気でそう思っていそうで怖いわ。で、ララメンテ家の方はどうなのよ?」
「ウチは元々統廃合する程支部道場がないし、道場生の数は減っても、頑張って今ある支部道場は維持する方針だよー。その為にも、大会の興行収入で稼がないと」
「『道場に入門する』まで行かなくても、『試合を観て楽しむ』層がCMオンエア後にかなり増えたのは確かね」
「レングストン家の場合、『エーレを観て楽しむ』層が増えたのも確かだよー」
「私は珍獣か」
「パティみたいにテレビタレント業に精を出せば、かなり儲かるんじゃないかなー。私は一ヶ月も持たずに番組を降ろされてそれっきりだけどー」
「あれは番組自体に問題があったんだから、むしろ降ろされてよかったじゃない。パティは、まあ、元々そういうのに向いているんでしょうね。私はあんな風に上手くやっていく自信はないわ」
「着ぐるみ姿なら、エーレの方が勝ってるよー」
「あまり嬉しくないんだけど」
「いっそレングストン家のマスコットキャラになっちゃえばいいのに」
「父と同じ事を言わないで。紅茶がまずくなるわ」
「ムートさんに提案してみようかなー。『エーレをマスコットキャラにした場合、宣伝効果のみならず、グッズ展開でひと儲け出来ますよ』って」
「人の人生で遊ばないでくれる?」
マスコットキャラ化を頑なに拒むエーレだった。




