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マントノン家とレングストン家の令嬢にテレビ番組出演のオファーがあったからには、当然ララメンテ家の令嬢にもその手のオファーが来ていたのだが、
「ニュースと社会派ドキュメンタリーのコメンテーターしか来てないねー」
ちょっと残念そうに感想を述べるコルティナ。
「やはり『分析眼』を買われているのでしょうね」
オファーをコルティナに伝えたララメンテ家の広報担当者が答える。
「だったら『お笑い番組の審査員』はどうかなー?」
「それ、一番不向きだと思います」、と言いたいのをこらえ、
「お笑いは分析とは相容れないものですから」
煙に巻く広報。
「『子供番組のお姉さん』も楽しそうだよねー。エーレにはオファーがあったみたいだけどー」
「子供よりふわふわしてる人に『お姉さん』が務まるかどうか不安です」、という本音は隠し、
「小さな子供は言う事を聞かないので、結構ハードと聞きます」
再び煙に巻く広報。
「スイーツを食べ歩く旅に出る番組からオファーが来ないかなー。テレビ局のお金で美味しい物を食べ放題」
「ララメンテ家のお嬢様ともあろうお方が、さもしい事を言わないでください」、と文句の一つも言いたくなるのに耐え、
「屋外ロケであちこち旅に出歩くとなると、稽古に支障が出かねません」
あくまでも煙に巻く広報。
「世の中上手く行かないねー」
「コルティナお嬢様の場合、普通の人の数十倍は上手く行っている気がするんですが」
煙に巻くのを忘れ、うっかり本音でツッコミを入れてしまう広報。
「あ、いえ、その、もちろん普段からそれだけの努力をなさっているからこそ」
あわててフォローしようとするが、コルティナは気を悪くした様子もなく、いつものふわふわした笑顔で、
「数十倍は大げさだよー。努力しても剣術で上手く行かない事なんかたくさんあるしー」
深いのか浅いのかよく分からない事を言って、逆に煙に巻く。
「はあ」
「とりあえず、コメンテーターのお仕事は受けてみるねー」
こうしてニュース番組にコメンテーターとして出演したコルティナだが、一ヶ月も経たない内に番組から降板させられてしまう事になる。
原因は、「ニュースに対する分析をコルティナにお願いする」というのは建前で、テレビ局側の本音は「この人気美少女剣士の口から、自分達に都合のいい事を言わせようとしただけ」であったのに対し、当のコルティナがそんなドス黒い思惑に関係なく、「ひたすら受け狙いのボケをかまし続けた」事によるもので、
「世の中上手く行かないねー」
ふわふわと笑うコルティナを前に、広報担当も、
「ララメンテ家をテレビ局の踏み台にされるよりは遥かにマシです」
本音を言って笑って見せた。