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「マントノン家のミノンもパティも、種類は違えどテレビのレギュラー番組を持つ事で、道場の宣伝効果を上げている様だ。お前もやってみる気はないか?」
レングストン家の執務室で、当主ムートが娘エーレに言う。
「ありません。私はCM出演だけで精神的に一杯です。出来ればCMからも手を引いて、剣術に専念したい位です」
真面目な表情ではっきりと断るエーレ。
「主に子供向け番組からオファーが来ているんだが」
「人の話を聞いてください、お父様」
「まあ、聞くだけ聞くがいい。例えばこれはアクションに重点を置いたドラマで、正義の剣士が主人公の勧善懲悪ものだ。毎回悪党との剣の立ち回りが見せ場となる」
「その剣の立ち回りを演じる為に、私が必要だと?」
剣と聞いて、少し興味が湧いて来たエーレ。
「いや、それは主役悪役共に、もう役者が決まっている」
「では、その剣の演技指導に、私の力を貸せと?」
さらに興味が湧いて来たエーレ。
「いや、それもプロの殺陣師がいる」
「では、エキストラとして、ちょっと顔を出せと?」
剣術から離れて少し残念そうな顔になるエーレ。
「いや、そもそもドラマ自体への出演ではない」
「ナレーターですか?」
「近い。ドラマが終わった後、視聴者からのお便りを読むお姉さん役だ」
「お姉さん、ですか」
普段、世間からちっちゃい子扱いされているエーレは、本物のちっちゃい子達から「お姉さん」と慕われる自分の姿を想像し、少し気持ちが揺らぐ。
「ただしお便りを読む際は、可愛いリスの着ぐるみを着るらしい」
「お断りします。まだ甲冑を着て読む方がマシです」
気持ちの揺らぎがピタッと静止するエーレ。
他にもいくつか番組出演のオファーがあったが、どれもこれも剣術と関係がなく、さらに「可愛い動物の着ぐるみを着て」という条件が付加されており、
「今回はご縁がなかったと言う事で」
もっと激しく拒絶してやりたい、という衝動を抑えつつ言葉を選ぶエーレだった。




