◆24◆
レングストン家の令嬢エーレは、二刀流の使い手である。
片方の手に約一メートルの普通の剣、もう片方の手に約六十センチの短い剣を持って戦うこの二刀流、公式ルールとしてはレングストン家だけでなく、マントノン家やララメンテ家でも認めてはいるが、その扱いや指導の難しさから、選択するのは少数派であり、さらに公式大会で上位まで来る者となると極めて珍しい。
「髪型がツインテールだから、二刀流なのね」
「二刀流だから、ツインテールなのかも」
「どっちにしてもかわいいなぁ、もう!」
何も知らない観客達から、あらぬ誤解を招いている上、すっかりマスコット扱いのエーレだが、ここで、
「べ、別にそんなんじゃないんだからね! 二刀流を選んだのは好きな剣豪がそうしてたからだし、この髪型とは関係ないんだから!」
と、反論したら負けかなと思ってる。
もしそんな事を、ちょっとでも言おうものなら、
「ツンデレキター!」
と、火にガソリンを注ぐ結果になってしまい、不本意なマスコット化にますます拍車が掛かってしまう。
身長が低く小柄なエーレは、子供っぽく見られるのが嫌で、一挙一動に気を付けて大人っぽく振舞おうと心掛けているのだが、逆にそれが子供っぽさを強調している事に本人は気付いていない。
大人になろうと懸命に背伸びしているちっちゃい子は可愛いのだ。
しかし、ちっちゃい子ながら試合に臨めば堂々たるもので、自分より大きな対戦相手から、二刀を巧みに操って一本を奪うその技の切れに、「お見事」という感嘆はあっても、「可愛い」という嬌声は出ない。
そのちっちゃな剣士ことエーレが、今、マントノン家からやって来たシェルシェという魔物に、果敢に立ち向かおうとしている。
それまで数々の対戦相手に恐怖を植え付けて来たシェルシェは、防護マスクの中から妖しい狂気に満ちた笑顔でエーレを見据えていたが、エーレはそれを真っ向から受け止めて何ら怯む事なく、
「『出来レース疑惑を払拭する為に、他家の大会に参加した』ってのは嘘ね。どこからどう見ても、『強い相手と戦いたくてしょうがない』って顔だもの」
と見抜き、こちらからも、ニヤリと不敵に微笑み返して見せた。
「ふふふ、期待してますよ、エーレ」
それに気付いた魔物が、微かな声で呟く。
種類は違えど笑顔の二人が、互いに一礼の後、中央で向かい合い、
「始め!」
の合図と共に、準決勝戦が開始された。