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CM出演をきっかけとして、テレビのバラエティー番組にゲストとして呼ばれる事が多くなったマントノン家の三女パティにある日、
「幼児向け番組にレギュラー出演しませんか」
というオファーが舞い込んだ。
レギュラーと言っても、番組内の三分程のミニコーナーで、小さい子供達に手取り足取り剣術の基礎を教えるという、パティ本人にとっては天国、シェルシェにとっては不安の渦でしかない内容である。
「ぜひ引き受けようと思います! これまで私達の出演していたCMは、どちらかと言えば成人女性向けでしたから、ここでロリショタもとい小さな子供達にマントノン家の剣術をアピール出来るまたとない機会ではないでしょうか」
顔は紅潮、口元はだらしなく、目を爛々と輝かせながら、パティが興奮した口調でシェルシェに力説する。
「一理あります。ですが、ある意味子羊の群れの中に狼を放り込む様なものですから、不安です」
「そんな狼から可愛い子羊達を守るのが私の使命です」
「ここで言う狼とはあなたの事です、パティ」
「私は狼ではありません! 可愛い子羊は大好きです」
「あなたが言うと、何故か危険な響きが感じられてならないのですが」
「大丈夫です! 逆に何が問題だと言われるのですか?」
「あなたの存在そのものが問題です。小さな子供達に過度なスキンシップ、包み隠さず言えば痴漢行為を働いた事が発覚した場合、あなたのみならずマントノン家の名誉が地に堕ちるのですよ」
「誓います。いたいけな子供達が嫌がる様ないかがわしい行為には、断じて及びません」
「それならいいのですが」
「子供達が喜ぶ様な行為だけを――」
「そこに正座しなさい、パティ」
マントノン家の執務室の床にパティを正座させると、当主シェルシェは抜き身の剣を片手に、延々説教モードに突入するのだった。




