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「マントノン家もレングストン家も、CM出演争いに敗れたタレントのイベントのスポンサーになる事を名言している以上、ウチもそれをやらない訳にはいきません」
ララメンテ家の経営陣がコルティナに相談を持ち掛け、
「CM出演料の事なら私に構わず、どんどんタレントさんに還元しちゃってくださいねー」
ふわふわと承諾するCM主演女優コルティナ。
「本当は一旦掴んだ金を手放したくはないのですが」
「これも浮世の義理だよー。でも大丈夫、次の剣術全国大会の宣伝費だと思えば十分元は取れるからー」
金銭に執着しない辺りは、いかにも苦労知らずのお嬢様育ちらしく思えるが、その実、将来的な利益をきっちり見込んでいる所がいかにもコルティナらしい。
そのコルティナの出演したCMは好評につき別バージョンのものが作られ、さらに同メーカーの他のお菓子のCMにも起用されるに至り、その出演料の合計もララメンテ家にとって無視できない程の金額になっていたのである。
一連のCMの内容はどれもほぼ同じで、魔女や女神や妖精に扮したコルティナが熱心に何かをやっている人々の邪魔をして菓子を勧めるものであり、一歩間違えば鬱陶しくなる所を、力技でふわふわとした雰囲気にしてしまうのが人徳と言えば人徳かもしれない。
人徳はともかく、その美少女な外見を活かしてもっとエレガントな雰囲気のCMを制作しませんか、と提案された事もあったが、
「それだと、小さい子が見て楽しくないですよー」
大人がお菓子を食べない訳でもないが、何と言っても最大の消費者は小さい子である、とコルティナは力説し、実際に小さい子向けのコント仕立ての企画を提案して成果を上げる事でそれを証明する。
「でもエーレには敵わないよー。あの可愛い着ぐるみ姿は反則級ー」
自分が出演しているCMのお菓子を大量に持参し、レングストン家に遊びにやって来たコルティナがからかう様にエーレに言う。
「じゃああなたも着たら? 大きいお友達が応援してくれるわよ」
少し嫌そうな顔をしてエーレが答える。
「私が着ると、どうしてもギャグにしかならないからねー。あれは年相応な子が着てこそだよ」
「あなたと同じ年なんだけど!」
「そこへ行くと、マントノン家の三姉妹が出てるCMはどれも大人っぽいよねー」
「まあ、あの三人は元々大人びてるから」
「イメージ戦略的に、美容に気を遣う若い女性を狙っているんだろうけど、イメージに釣られて入門したそういう人達が長続きするかどうかはちょっと疑問かなー」
「結局、剣術道場は剣術道場であってフィットネスクラブじゃないものね」
「レングストン家の道場は、小さい子がたくさん入門したって話だけどー」
「ま、事情は同じよ。イメージに釣られて入門した小さい子に、剣術の楽しさをどうしたら分かってもらえるかが課題かしらね」
「それと、大きいお友達もー」
「剣術の厳しさを教えて更生させたい所だわ」
「『我々の業界ではご褒美です』って方向?」
「違うわ!」
「動物着ぐるみパジャマを着せた大きなお友達を、エーレが順番に木刀でシバいて、『おら、この犬が!』とか言って足蹴にするのー。で、大きなお友達が喜悦の表情で『ありがとうございます!』って」
「具体的に想像させるなっ!」
その後も二人はお菓子を食べながら、CMと剣術道場との関わりについて熱い議論を戦わせた。