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「今回の一連のCM出演は、思ったより批判も少なく、正直ほっとしています」
マントノン家の屋敷の書斎で、前々当主の祖父クペに現当主シェルシェが報告する。
「これも時代かもしれんな。『剣士は剣術のみに精進すべし』、という古風な観念は文字通り時代遅れなのだろう。だが、単純にCMの出来が良かった事も大きいのではないか。何と言っても主演女優が素晴らしい」
録画した三人の孫娘達のCMを何百回も再生して見たであろう祖父バカモードのクペが微笑みながら言う。
「ふふふ、制作サイドの方々が頑張ってくださったおかげですよ。おかげ様で評判も上々、クライアント側の売上げとウチの入門希望者が共に増加するという形で、相乗効果も得られています。また、入門までいかなくとも、世間一般における剣術のイメージ向上にも、十分貢献したのではないでしょうか」
「三人の美少女剣士のイメージ映像で、『フィットネスクラブに負けず劣らず、剣術は美容に効果がある』、と宣伝した様なものだからな」
祖父バカが止まらないおじいちゃま。
「あくまでもイメージです。美容の目的だけならフィットネスクラブに通うべきでしょう。もちろん、こちらからその様に商売仇を利する事は言いませんけれど」
「CMなどイメージ戦略以外の何物でもあるまい。まあ今回はこちらから広告費を出さずに、他企業の金でイメージ戦略を実行出来た訳だ」
「おまけに結構な額の出演料まで頂いてます。ですが、誰かが利すれば誰かが損をするものです。私達に仕事を奪われた本職のタレントの事ですが」
「仕方あるまい。最終的に誰を起用するかを決めたのは我々ではない」
「ですが、『マントノン家は本職でもない癖に自分達の仕事を横取りした』と、後々の禍根を残すのも問題です。そこで、今回CM出演の有力候補だったタレントがイベントを行う際、そのスポンサーの一つにマントノン家が名乗り出る事を約束し、この問題を回避しようと思います」
「なるほど。それなら遺恨は残らんな」
「さらに、『マントノン家に仕事を譲ると、後々見返りがある』という図式を作る事により、今後の仕事も得易くなります。私達は芸能界での金銭的利益は求めていません。イメージ戦略としてちょっとだけ利用させてもらえばいいのですから」
「ミノンとパティには、今後もCM出演させるつもりか」
「ええ。ですが、数は絞ります。剣術修行の妨げになっては本末転倒ですし、出る杭は打たれるものです」
そこでシェルシェは妖しく微笑み、
「もっとも打ちに来た者を五体満足で帰す程、マントノン家は甘くありませんが」
二人の可愛い孫娘のCMをあれこれ想像して幸せな気分に浸るおじいちゃまの背筋をゾッとさせた。




