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マントノン家とレングストン家が相次いで他企業のCMに令嬢を出演させ、タイアップ戦略で効果を上げる中、
「ウチの令嬢も、このビッグウェーブに乗らない手はありません」
当然、ララメンテ家の経営陣から要望が出され、
「じゃあ、オファーが来たら私も乗るねー」
コルティナもそれをあっさり承諾した。
すぐに大手製菓会社アトレビドとの契約がまとまり、三週間程でコルティナを起用したTVCMがオンエアされる運びとなる。内容は以下の通り。
道場で多くの道場生達が一心不乱に木刀の素振りの稽古に励んでいる。
そこへ、黒いローブにトンガリ帽子というベタな魔女のコスプレをしたコルティナが、ふわふわと宙を飛んで来て、
「みーんな、ふわふわになーれー」
と言いながら、手にした直径五センチ長さ三十センチ程の黒い麩菓子を一振りするとあら不思議、道場生達が振っていた全ての木刀が一瞬にして麩菓子に早変わり。
稽古を諦めた道場生達は、車座になっておやつタイムへと突入し、その輪の中心で魔女コルティナが、
「サムライの国からやって来た、甘くてふわふわなお菓子を召し上がれー」
稽古の妨害をした事への罪悪感が微塵も感じられないふわふわな笑顔で商品をアピールして終了。
試写会でこれを見せられたララメンテ家の役員達は、「いいのか、これ」、と言いたげなかなり微妙な表情をしていたが、
「この企画を考案したのはコルティナさんです」
と、制作スタッフに説明され、
「なら仕方ないか」
と、訳の分からぬままGOサインを出した。
このCMが放映されると、そのふわふわさ加減が小さな子供達に大いに受け、アトレビドの麩菓子は爆発的な人気商品となる。
「いっぱいもらったから、おすそ分けしに来たよー」
そんなある日、段ボール箱一杯に詰まった麩菓子を持参して、コルティナがレングストン家に遊びにやって来た。
「コルティナ、もっと仕事を選びなさいよ。まあ、私も人の事はあまり言えないけれど」
もらった麩菓子をサクサク食べながらエーレが言う。
「うふふ。でもあのCMでウチの入門希望者の数も増えたよー」
同じく麩菓子をサクサク食べながらコルティナが答える。
「入門したら、稽古の合間に麩菓子が出ると思ってたりしてね」
「何人かはガチでそう信じてた」
「TVCMの効果って怖いわ、ホント」
「試しに稽古の合間に出したら結構好評だったよー」
「出したんかい」
「他に某証券会社からのCM出演のオファーもあったんだけど、そっちは断ったのー」
「そっちの方があなたにぴったりじゃない。『データ分析による確かな投資を』、とか言ったりして」
「でも調べたら、近い内に不祥事をやらかしそうな会社だったからね。巻き添えでララメンテ家まで悪いイメージが付くと嫌だしー」
「あなたには敵わないわ」
麩菓子片手に、仲良く笑い合う二人。
実際半年もしない内にその証券会社で巨額のインサイダー取引が発覚して役員達が逮捕され、そのデータ分析の確かさを実証する事になり、広告業界関係者の間でコルティナは「データ分析の神」という称号を得たのだった。




