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コルティナの宣伝が効いたのか、その後高校生の部と一般の部も、小・中学生の部程ではないにせよ、そこそこの盛況の内に終了し、ララメンテ家の剣術全国大会は大成功の内に幕を閉じる。
この年の三家の大会を振り返れば、小学生の部では、マントノン家の三女パティが大会デビューで二冠を達成した事、中学生の部では、ミノン、エーレ、コルティナの三令嬢が揃い踏みした事でそれぞれ話題となり、エディリアでの武芸ブームが衰退して行く中、この三つの剣術道場の入門者数はまだまだ増加傾向にあった。
そしてこの三大会が終了して三ヶ月後、剣術の最大手マントノン家が、さらに世間の度肝を抜く事をやってのける。
化粧品会社のジュスキャが自社製品のCMに、マントノン家の当主シェルシェ・マントノンを起用したのである。
「また、思い切った事をやったもんだなあ」
マントノン本家の屋敷を妻子と共に訪れていた前当主の父スピエレが、前妻との娘で現当主のシェルシェに言う。
「ふふふ、あくまでも短期間の契約ですが、世間に与えるインパクトは大きいでしょう。ジュスキャとマントノン家、双方に利益があると判断して申し出を受け入れました」
そう言いながらシェルシェはリモコンを操作し、居間の大型液晶テレビにそのCMを映し出した。
森の奥の大自然の中で稽古着を着たシェルシェが踊る様に剣を振り回し、最後にスキンケアクリームを持ってにっこり笑う場面で終わるもの。
日焼け止めクリームを塗ったシェルシェが白いドレス姿に着替えた後、剣を持って色とりどりの花が咲き乱れる庭園に出て、そこに立ててあった五本の巻藁を一撃で全て水平に斬って落とす場面で終わるもの。
稽古場で練習中、他の道場生達から次々と一本を奪った後、防護マスクを外して微笑み、洗顔フォームを塗りたくった顔を洗い流す場面に切り替わって終わるもの。
いずれも化粧品会社のCMにしては、無理矢理剣術と絡めたチグハグ感が残るものの、シェルシェの美しさがその難を隠して余りあり、世間の評判も上々であった。
「親バカと言われるかも知れないが、かなりいい出来だと思うよ。それと、やっぱりお前は母親にそっくりだ」
改めて一連のCMを見終わって、しみじみと感想を述べるスピエレ。
「ふふふ、ありがとうございます、お父様。常にマントノン家の為を思っていらっしゃったお母様の事ですから、きっと私のした事も許してくださるでしょう」
「許すも何も、娘を綺麗に撮ってもらって喜んでいるに違いないさ」
剣術の名門の当主が軽々しく他社のCMに出た事の是非など、全く考えずに笑うスピエレ。
一方このCMを見たレングストン家では、
「よし、エーレ。お前も何かのCMに出なさい」
当主ムートが自慢の娘にそう提案し、
「嫌と言ったら嫌です」
エーレの徹底的な抵抗に遭っていた。




