◆23◆
「マントノン家のお嬢様の正体が、あんな呪われた魔物だったなんて」
「もうやだ。今晩、夢に出て来そう」
「コワイヨ、コワイヨ、コワイヨ、コワイヨ、コワイヨ……」
対戦相手となったレングストン門下の小学生女子選手達に、見てはいけないものを見てしまった系の深刻なトラウマを与えつつ、シェルシェはその後も傍目には華麗かつ優雅に勝ち進んで行った。傍目には。
気が付けば、早や準決勝である。
「流石、マントノン家の優勝者ね」
同じくここまで勝ち進んだレングストン家令嬢のエーレが、感心した様に、しかし闘志を燃やしつつ、シェルシェに言った。
「ふふふ、こうしてあなたとのカードが実現した事で、さぞ観客の人達も喜んでいると思います」
そう言って、微笑むシェルシェ。
「マントノン家対レングストン家、しかも令嬢対決と来れば、下世話な意味で盛り上がるのは確実、か。こういうベタなのは好きじゃないけど」
「状況がどうあれ、私達は私達の試合をするだけです。それだけの事で盛り上がってもらえるなら、結構な事じゃないですか」
「準決勝が『それだけの事』とは、レングストン家も随分舐められたものね」
「ふふふ、お笑い芸人が客席を盛り上げる苦労に比べれば、誰に気を遣う事なく試合に集中するだけでよい私達は恵まれている、という意味です」
「ウチの大会はお笑いショーじゃないんだけど。でも、まあ、言いたい事は分かったわ」
試合の開始時間が近付き、エーレは、
「お互い、家や商売の事情は忘れて、この一戦に集中しましょう」
そう言って、準備に戻ろうとする。
「ええ、全力で戦いましょう」
品良く微笑んではいるが、シェルシェの目が妖しく光った事に、エーレは気付いていた。
いつから、彼女はこんな魔物になってしまったのだろうか。
お笑いとホラーは紙一重。
そんな言葉が、何故かエーレの脳裏をよぎる。




