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「力及ばず負けてしまいました。ですが、『自陣を防衛するコルティナ』と、その最高の実力が発揮されるであろう決勝戦において剣を交えられた事に、今もまだ興奮が冷めやりません」
マントノン家の屋敷の書斎で祖父クペを前にして、ミノンがララメンテ家の大会の決勝戦の感想を熱く語った。
「私の作戦が通用しませんでした。データをかく乱して何とか延長戦に持ち込んだ上で、コルティナのデータを逆に分析し、カウンターを潰す計画を立ててミノンと特訓したのですが、コルティナの方が一枚上手だったと言わざるを得ません。恐るべき分析眼です」
穏やかな笑みを浮かべて淡々と、しかしその口調に隠しきれない無念と闘志を滲ませながら、シェルシェが補足する。
実際に戦って敗北したミノンが妙に高いテンションで、その裏で操っていたシェルシェの方が低いテンションという、「散歩が楽しくて興奮気味の大型犬とそれに引きずられる困り顔の飼い主」の構図だった。
「確かに今大会でのコルティナは、神懸かっていたとしか言い様がない。が、ミノン、お前とて決してコルティナに引けは取っておらん」
ベテラン剣士としてなのかただの祖父バカモードなのかおそらく後者であろうが、クペがミノンを励ます様に言う。
「そもそもコルティナはお前より二つ年上だ。この時期の二年の経験の差は非常に大きい。同じ年齢であったならば、勝敗の行方はまた違っていただろう」
「『もしコルティナと私が同じ年なら、毎年大会で戦えるのに』、と残念でなりません」
勝敗の行方より、強敵と戦う事そのものへのこだわりが強いミノン。
「ふふふ。同じ年でも、もう戦う事が出来なくなってしまった私に比べれば、また三年後に高校生の部で戦えるあなたは幸運ですよ」
シェルシェが穏やかな笑みを浮かべつつミノンを諭したものの、その言葉の裏にある一抹の寂しさは隠せない。
「あ、そうそう、試合後にコルティナが言ってましたよ。『三年前のシェルシェと試合をしてるみたいだった』とか」
そんなシェルシェの心をさらにかき乱す様な言葉をミノンが告げる。
シェルシェは目を閉じて、少し沈黙した後で、
「コルティナの中の私は、三年前のままで止まってしまっているのでしょうね」
としみじみと言い、
「ですが、それも私が選んだ道です。剣の戦いは妹達に任せて、私は私の選んだ道で戦いを続けて行くしかありません」
自分に言い聞かせる様に、力強く言い切った。
「ところで、そのもう一人の妹が来ていないが」
クペが問うと、
「パティなら、大会終了後、レングストン家のエーレに再度痴漢を働いた罪で地下倉庫で正座させています」
氷の様な笑みを浮かべながら、シェルシェが淡々と説明する。
「またか」
思わずため息をつくおじいちゃまだった。




