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会場の盛り上がりが最高潮に達する中、決勝戦は延長に突入し、時間無制限、どちらか先に一本取った時点で優勝が決定される事となる。
延長戦でも特に変わる事なく、ふわふわと突っ立って、剣を中段にふわふわと構えるコルティナに対し、距離を取って対峙するミノンは、戦闘スタイルを先程までとはガラリと変えて来た。
軽快なステップを踏むのをやめて、小刻みに振っていた剣を頭上に振りかぶり、上段に高く構えてピタリと静止したのだ。
「お、いつものミノンだ」
「やっぱり巨大怪獣が剣を振りかぶると迫力があるなあ」
「今までぴょこぴょこやってたのは、慣れている一撃勝負に持ち込んで、一気に決着を付けるつもりだったんだな」
観客達も、今やすっかりミノンの意図を理解した様子。
しかし、さらに、ミノンが振りかぶった剣から右手を離し、左手だけで柄を持つに及ぶと、
「え? 何だありゃ、ミノンが最初から片手?」
「左手だけで打つのはよくある事だが、構えから左手だけってのは珍しいな」
「何か策があるのか? 策を弄するミノンなんて似合わねえや」
予想外の事態にざわつき出す観客達。
「三年前の再現ね」
そんな中、エーレは一つの可能性を示唆した。
「あ、ララメンテ家の小学生の部の大会で、シェルシェがコルティナと決勝で戦った時の!」
隣でそれを聞いたティーフが合点する。
「ええ。あの時、延長戦の末、シェルシェは左手で上段に構えてコルティナを破ったわ」
「じゃあ、あの構えは、シェルシェが指導したものか?」
「試合に出場出来なくなった殺人鬼の亡霊が、巨大怪獣の体を借りて、かつての好敵手と一戦交えようとしてる、って所かしら」
設定だけ聞くとB級ホラー映画にも程があった。
しかしB級ホラーマニアなら、「そんなバカ映画なら、是非見届けなくては」、とテンションを上げる事だろう。