◆219◆
決勝で待つミノンと対戦する権利を懸けて、準決勝を戦うエーレとコルティナ。
この二人の令嬢はどちらもそれぞれ、一昨年、昨年と自家の大会で二年連続優勝しており、今年エーレは惜しくも三年連続優勝は果たせなかったが、コルティナにはまだその可能性が残っている。
しかしそんな事情は、この二人の試合には何の影響も及ぼさない。
前に突き出した左の短剣を小刻みに動かしつつ、右の長剣をやや内向きに斜めに倒して高く振りかぶって構えるエーレの姿には、「何が何でも勝つ」というガツガツした執念はなく、「ただ無心に打つのみ」という、子供っぽい外見に似合わない余裕と落ち着きが感じられる。
一方、ふわふわと突っ立ち、剣を中段にふわふわと構えるコルティナの姿には、知らない人が見れば「やる気あるのかな、この人」と少し不安にならずにはいられないが、これまでの戦い振りを知る人にとっては、「達人の風格とはああいうものだろうか」と、浮世離れした達観の境地が感じられなくもない。
そんな二人が試合開始直後からずっと間合いを取って睨み合っている光景には、単なる勝敗や名誉を超えた別の何かがあった。
やがて、試合時間も半分が過ぎた頃、突如弾かれた様に前に出たエーレが、相手の頭部めがけて長剣を叩きつけたが、コルティナはこれを、ひょい、と剣を上げて阻止。鍔迫り合いになった後、互いにゆっくりと離れ、再び睨み合いへと戻る。
それを切っ掛けに、エーレは右の長剣で断続的な一撃を加え続け、
「いつものエーレみたいに、二刀を使って複雑な軌道を描く打撃ラッシュじゃねえぞ」
「左の短剣は防御、右の長剣は攻撃と、すごく単純明快な役割分担になってるな。単純な分、正確で速い」
「何だか俺には、エーレがコルティナの動きを読みながら攻撃してる様に見えるんだが」
観客達に様々な憶測を促す結果となった。
エーレのシンプルな一撃による断続的な攻撃に耐え、防戦一方のコルティナだったが、ふわふわと的確にそれらを防ぎ切ったのは分析魔の面目躍如と言っていい。
そんなコルティナにしつこく攻撃を加え続け、ついにその左胴を打ち据える事に成功するエーレ。だが、コルティナも同時にエーレの頭上を打ち、これを相殺して試合続行。
時間切れになる数秒前、エーレの長剣による上からの鋭い一撃を、コルティナはまるでそれを予知していたかの様に、ふわっと後退して空振りに終わらせた後、再びふわっと前に出て、エーレの右腕をふわっと軽く打ち据えた。
これが一本と認められ、両者開始位置に戻って仕切り直しとなったが、すぐ時間切れとなり、コルティナの判定勝ちが確定する。
「今年、エーレは三大会いずれも優勝出来ずに終わりましたね」
観客席のパティがそう言うと、
「でも、エーレは清々しい顔をしていました。やはり大切なのは勝敗より、好敵手と存分に戦える事です」
隣に座るシェルシェは、そう言って穏やかに微笑んだ。
「でも、ミノンお姉様がコルティナに勝ったら、嬉しいでしょう?」
そんなパティの問いに、
「ふふふ、当然です」
隣に座るシェルシェは、そう言って妖しく微笑んだ。




