◆218◆
「何か変な称号が定着しそうで怖いな」
コルティナに惨敗を喫したティーフが、その試合直後、平静を装おうとして苦笑混じりにエーレに言うと、
「私のふざけた称号と交換してあげたいわね。本当に」
エーレも努めて陽気に冗談っぽく返した。
ティーフの「復讐鬼」と、エーレの「ちっちゃな二刀使い」、「ツンデレ二刀流」、「ツンデーレ」とでは称号としての互換性がないにも程があるが、レングストン家の大会優勝者としての面子を保てなかった事に責任を感じているであろうティーフへの、エーレなりの気遣いである。
「いや、本当に交換出来るならすぐにでも交換したいわ、切実に。せめて『ちっちゃな』とか『ツンデレ』とかの邪魔な要素を捨てるだけでもいいんだけど」
実はかなり私情も入っていた。
エーレの熱狂的なファンからすれば、「それを捨てるなんて、とんでもない!」、と抗議したくなる二大要素であろう。ある意味「二刀流」より大事。
「自分がそうありたいと願う自分」と「他人から見た自分」は往々にして異なるものらしい。
一方、他人が自分をどう見ようともまったく気にせず、ふわふわと我が道を行く「ふわふわ分析魔」コルティナは、その後もふわふわと勝ち進み、気が付けば準決勝戦でエーレと当たる事となる。
もう一つの準決勝戦では、既に「巨大怪獣」ミノンがララメンテ家の選手に勝っており、準決勝、決勝と、令嬢対決が二つ続く形が確定した。
「まあ、トーナメントの組み合わせを見た時、こうなる事はほぼ予想出来たな」
「裏を返せば、ララメンテ家のデータ分析主義も、ミノンとエーレには通用しなかった訳だ。その二人を一番念入りに分析してただろうに」
「令嬢対決が実現したのは嬉しいが、無名選手がデータ分析で令嬢に勝って欲しかった気もしないでもない。ただ、それが実現すると、今度は令嬢対決の可能性が一つ減る訳だが」
観客達がそれぞれ言いたい事を言い合って盛り上がる中、「ふわふわ分析魔」と「ちっちゃなツンデーレ」の試合がいよいよ開始される。