◆217◆
中段に構えた剣を小刻みに振りつつ様子を窺う闘志満々のティーフに対し、ふわふわと突っ立ってふわふわと中段に構える、闘志の欠片も見当たらないコルティナ。
両者、後一歩踏み込めば射程距離に入る間合いを保ったまま対峙していたが、試合開始から約一分経過した頃、不意にティーフが素早く前に出て、コルティナの右手を狙って鋭い一打を浴びせる。
が、コルティナはこれを、自分の剣をふわっと外側に払って難なく回避。
ティーフは外側に払われた剣を、コルティナより早く内側に戻し、間髪を入れずに一歩踏み込みつつ、左手を伸ばしてコルティナの喉元へ突きを放った。
が、この突きも、調子の悪いワイパーの様にふわっと内側へ戻って来たコルティナの剣によって軽くいなされ、逆にコルティナが左手で放ったふわっとした突きが、的確にティーフの喉元に命中する。
これが一本と認められ、両者、初期位置へと戻って試合再開となった。
「やっぱり、本土防衛戦の時のコルティナは強えわ」
「ティーフが派手に突撃して来たのに、コルティナはほとんど動かずにあしらったぞ。格が違う」
「でも、ティーフはまだ勝負を諦めてないな。また飛び込む気満々だぜ」
観客達の言う通り、一本先制されようともティーフの闘志に翳りはなく、この強敵に一矢報いようと必死になって隙を窺っているのが見て取れた。
「ふふふ、コルティナは果報者です。あんなに闘志を漲らせているティーフと戦えるのですから」
防護マスク越しのティーフの真剣な表情を双眼鏡で観察していたシェルシェが、しみじみと言う。
「でも、コルティナの表情に変化はありませんね。相変わらず、平常心が服を着て歩いている様な人です」
隣のパティも双眼鏡でコルティナを観察しながら、感心した様に言う。
その後もずっと睨み合いが続き、ついに試合時間の残りが五秒を切った時、勝負に出たティーフが前に大きく一歩踏み出しつつ相手の頭めがけて打ち掛かるのを、コルティナはふわっと自分の剣を斜めに持ち上げて防御し、そのまま流れる様にティーフの右胴をふわっと打ち据えて一本を取る。
これによりコルティナの勝利となったが、観客達は最後まで諦めずに戦ったティーフにも温かい声援を送った。
「『復讐鬼』の名に恥じない様に、来年また頑張れよー!」
「え、結局それ私の称号になっちゃったの?」
と口には出さないが一瞬複雑な表情になり、悔し涙が引っ込んだティーフだった。