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その年のララメンテ家の剣術全国大会の小学生の部は、データ主義もろともパティに蹂躙されて終わった感があるが、そもそもパティという突出した強豪に匹敵するだけの選手が他にいなかった事を思えば、致し方ない結果であったとも言える。
それに比べて、中学生の部は、マントノン家のミノン、レングストン家のエーレ、ララメンテ家のコルティナという魔物クラスの三令嬢が一堂に会している年であり、また、先の二大会と違い、
「自陣を守る時のララメンテ家の選手は強い。特にその中心的存在であるコルティナは段違いに強い」
と、言われている事もあって、様々な要素が絡み合うこの大会における勝敗の行方を予想するのは容易ではなかった。
「要は、『コルティナ率いるララメンテ家防衛隊VSミノン、エーレそれぞれを核とした侵攻部隊』の構図だな」
「今年の小学生の部の、序盤の侵攻部隊の殲滅っぷりはすごかったよな。中学生の部でも、あれ位見事にやってくれるのかねえ」
「いや、侵攻側だって中学生ともなれば地味に強い選手も多いから、そんな簡単には行かないだろう」
大会会場にやって来た観客達も、試合前からあれこれ予想を楽しんでいたが、先の二大会と違って、個々の選手の事よりコルティナの戦略に関する考察が多い。
一方、そんな観客達で一杯に埋まった巨大会場を見渡しながら、ララメンテ家の経営陣は、
「これで今年も無事黒字を迎えられる」
「ふわふわお嬢様がいる限り、ララメンテ家は安泰ですなあ」
「まったく大した戦略家だ」
と、一しきりコルティナの興行戦略の手腕を褒め称えた後、祝杯を上げるべく、いそいそとスタッフ用控室へ引っ込んで行った。
「コルティナの戦略家としての資質を、全て把握出来ている人は少ないでしょうね」
観戦に来ていたシェルシェが、ふとそんな事を言う。
「英雄は英雄を知る、ですか、お姉様」
隣に座るパティがそう言うと、
「ふふふ、お世辞が上手くなりましたね、パティ。もっとも私もコルティナも、英雄にはまだ程遠い存在ですよ」
シェルシェは笑いながら横を向き、この妹が双眼鏡で可愛い女の子を熱心に物色している事に気付く。その証拠に頬が紅潮しており、口元もだらしない。
「あなたの資質は人に知られる前に闇に葬りなさい」
そう言って、シェルシェは凍りついた笑顔を再び試合場の方に向けた。