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その後シェルシェとパティは、マントノン家の屋敷の敷地内にある稽古場に赴き、エフォール叔父と特訓に励んでいるミノンに会った。相変わらず、この脳筋と熱血漢がエキサイトしていると、稽古場内の温度がやたら高くなる。
むせかえる様な熱気の中、激しい打ち合いの末に一区切り付いた所で、ミノンが防護マスクを取り、
「今日の試合を見ていたら、俄然やる気が湧いてきた」
と、目を輝かせて言う。
「気を付けなさい。あなたはもう先の二大会で、かなりのデータをコルティナに与えてしまっているのですから」
シェルシェが警告する。
「いよいよ能力全開のコルティナと、その作戦を授けられたララメンテ家の選手達と、思う存分戦える訳だ。アウェイの二大会と違ってホームではまた一段と強くなってるんだろうなあ」
ますます目を輝かせる脳筋。
「ええ、ホームとアウェイでララメンテ家の選手達が全く強さが違う事は、私も今日の大会で実感したわ」
パティが口を挟む。
「データ分析抜きでも?」
「データ分析抜きでも。傍目には私が楽に勝っている様に見えていたかもしれないけれど、実際は素でかなり強くなっていて、先の二大会とは皆まるで別人みたい」
「決勝戦では突きまで食らってたしな」
「もう何試合かあったら、負けてたかもね」
おどけて肩をすくめるパティ。
「それより、ララメンテ家も結構可愛い子が多くて。特にそのベルドラって子は反応がかわ」
「一日に二回も地下倉庫に行きたいのですか、パティ?」
桃色の白昼夢に耽りそうになるパティを、シェルシェが笑顔で脅迫して無理矢理引き戻す。
「コルティナはあの若さで、既に達人の風格が備わっている気がする。くれぐれも油断するな、ミノン」
澱みかけた流れを無視して、熱血カリスマ剣士ことエフォール叔父がミノンに申し渡すと、
「達人相手に油断出来る程の精神的余裕など、私にはありません」
ミノンは拳を握り締め、
「試合時間の一分一秒を無駄にしたくない気持ちで一杯ですから!」
気分はすっかり、お祭りに興奮する子供そのままだった。