◆212◆
「完敗だったわね。パティが派手に勝ち進んでいたから目立たなかったけれど、この大会は実質上ほぼコルティナの圧勝だった」
大会終了後、会場の外で集まっていたレングストン家の道場生達を前に、ちっちゃなエーレはそう言い渡した。
「すみませんでし」
「謝ることはないわ。あなた達はよく戦ったもの」
大会に出場した選手の一人が謝罪の言葉を言いかけたのを制してから、エーレは、
「あなた達がよく戦ったのと同様に、ララメンテ家の選手達もよく戦った。そして向こうはバックにコルティナが付いていて、あなた達の弱点が徹底的に分析されていた。敗因はそのコルティナの分析力を甘く見過ぎていた事よ。つまり私達指導者側の責任が大きいわ。力が及ばなくてごめんなさい」
そう言って頭を下げた。金髪ツインテールが垂れて、正面から見ると逆U字になってる。
「そんな事はありません」
「私達の責任です」
「エーレさん達達にはしっかり指導して頂きました」
選手達が反論すると、ツインテールを揺らして顔を上げたエーレは、
「かばってくれるのはありがたいけれど、これは事実よ。思っていた以上にコルティナの分析力が上がっていた、とも言えるわ。でも、あなた達の敗北は無駄にはしない」
そこで小さな胸を張り、
「中学生の部では、ララメンテ家のデータ分析に一矢報いてやるわ! 今日の大会から学んだ事を、絶対に活かして見せるから!」
力強く宣言する。
「頑張ってください!」
意気消沈していた選手達が励まされて明るさを取り戻し、ちっちゃなエーレめがけて殺到する。
今がチャンスだとばかりに他の道場生達もエーレに近づいて触りまくり、いつもの集団痴漢が始まった。
が、今日は何をされても、なるべく耐えようと決めているエーレ。
しょせん女の子同士、ちょっとふざけて羽目を外しているだけ。
これで皆が活気付いてくれるなら、多少の事は大目に見ても――
「って、何でコルティナがここにいるのよ!」
いつの間にかレングストン家の道場生の群れの中に、ふわふわとよそ者が紛れこんでいた。
「面白そうだったから、ついー」
ふわふわな笑顔でエーレの頭を撫で続けるコルティナ。
そこへララメンテ家の道場生達があわてた様子でやって来て、
「すみません、ちょっと目を離した隙に。ほら、よそ様に迷惑かけるんじゃないの!」
「えー、もうちょっとだけー」
呆然としているレングストン家の道場生達に詫びながら、ララメンテ家の捕獲班は名残惜しげなコルティナを連行して行った。
「色々な意味で、あの人には勝てる気がしない」
道場生の一人がポツリと漏らした。