◆201◆
「決勝戦とか関係なく、何も考えずに全力で本当に楽しく戦えました。今のティーフさんと勝負出来なくて、姉もさぞ悔しがるでしょう」
試合終了後、遊びたくてたまらない大型犬が飛び付いて来る様に、嬉しそうな表情のミノンがティーフに抱き付き、一方的にまくしたてた。
犬にとって、コンテストで優勝する事より、楽しく遊んでくれる人と巡り会える事の方が大事なのと同じ様に、ミノンにとっては、優勝や二冠達成より、いい試合が出来る好敵手と巡り会える事の方が大事なのである。
興奮気味の大型犬にわふわふ飛び付かれた状態のティーフは、まだ少し放心状態であったが、
「シェルシェさんと勝負出来なくて悔しいのは私も同じです。でも、今や押しも押されぬ強豪であるその妹さんと、こうして全力で戦えた事は、それを補って余りある位嬉しかった、とシェルシェさんに伝えてください」
じわじわとこみあげて来る優勝の実感をかみしめつつ、気が付けば両の目から涙が溢れていた。
その後、優勝インタビューを受けた際、記者から三年前の苦い敗北について聞かれ、
「あの時の事は、ずっと心に引っ掛かっていましたが、あの敗北があったからこそ、今日ここでミノンさんという強敵に何とか勝つ事が出来たのだと思います」
そう答えた後、感極まって、こらえていた涙がまた滝の様に溢れだすティーフ。
「ほ、本当に、長生きは、するもんだな、と、お、思いました」
感極まり過ぎて訳の分からない事を言い出し、
「あんた、まだ十五だろー!」
と、観客からツッコミが入り、場内大爆笑。
「あの子、できるねー。お客さんドッカンドッカン来てるよー」
そんなティーフにピント外れな感心をするコルティナ。
「何度も言うけど、優勝インタビューは一人漫談じゃないんだからね」
と、ララメンテ家の仲間に窘められるも、
「次のウチの大会では、皆、ティーフのああいう所を見習うようにー」
「人の話を聞け」
懲りないコルティナだった。




