◆20◆
金髪、ツインテール、ツリ目気味、スレンダー体型、身長低め、そんな外見をしているだけで世間から、
「あ、ツンデレっ娘だ!」
と、決めつけられる様になったのは、ギャルゲーの影響が大きい。
実際は、創作物におけるツンデレヒロインの容姿は非常に多種多様であるのだが、一度人々の心に強烈に刻まれたイメージが根強く残り続け、やがてステレオタイプとして定着してしまうのは、どの分野でも同じである。
それはともかく、そんな見事なまでのベタなツンデレの外見要素を備えつつ、本人は「自分はツンデレじゃない」と頑なに見えない何かと日々戦い続けているエーレが、シェルシェの側までやって来ると、
「まさか、ウチの大会に乗り込んで来るとはね」
と、呆れた様に微笑んだ。
「ふふふ、御無沙汰してます、エーレ。迷惑でしたか?」
シェルシェも微笑んで、それに応じる。
「全然。逆に、話題になって観客が増えたから、感謝したい位よ」
「それは何よりです。でも、レングストン家の看板あってこその集客力でしょう。武芸ブームの追い風に乗って、随分と道場生の数が増加したと聞きましたけど」
「業界一位に言われてもね。マントノン家もここ数年で、支部道場の数を急激に増やしてるじゃない」
「ええ。でも、いずれブームが終わる時の事を考えると、いい事ばかりではないのは分かるでしょう?」
「ガラガラの道場がたくさん残っても、儲けに繋がらないどころか、赤字を拡大させるだけよね。それで、こっちに宣伝に来たってわけ? レングストン家の道場生を一人でも多く奪う為に」
「ふふふ、道場生が増え過ぎてお困りの際は、是非、マントノン家へお譲りください。こちらの道場にはまだ若干余裕がございますから」
「あいにく、業界二位としては、お譲りする程の数の道場生は持ち合わせておりません。哀れな貧者からなけなしの毛布を剥ぐ様な真似はご遠慮ください」
試合前の控室、二人の小学生女子が膝を突き合わせ、和やかな雰囲気の中、話題にしているのは、主に剣術業界の現状と将来の展望についてであった。
つくづく、世間ずれしたお嬢様達である。
むしろ、ずれ過ぎかもしれない。