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目の前に三女パティと弟ヴォルフを正座させた長女シェルシェは、氷の様な微笑を浮かべてこの二人を見下ろしつつ、
「武芸の名門の子女にあるまじき、いかがわしい悪ふざけをしていた事について、何か弁明はありますか、パティ?」
まず、妹の方から詰問を始めた。
どんな言い訳をしても有罪判決が下る事は分かりきっていたが、それでもパティは、
「悪ふざけではありません。『肌に傷一つ付けず、衣服だけを切り裂く』、というナイフ格闘術の奥義を、ヴォルフに実演していただけです」
と、大真面目に弁明を試みる。
「なるほど、それは認めましょう。ですが、その実演の為にわざわざ、男の子のヴォルフに女の子の服を着せる必要があったとは思えませんが?」
「その方が可愛いからです」
もっとマシな言い訳もあろうに、己の欲望に忠実な返答をするパティ。
「その可愛い弟の服を切り裂く行為に、あなたは何も問題を感じなかったのですか?」
「感じないどころか、大問題です」
「あら、意外ですね。あなたの事だから、『何の問題も感じません』、と言い切るかと思いましたが」
「この奥義の最大の問題は、服を切り裂いてヴォルフを全裸にしてしまったら、そこで楽しみが終わってしまう所です。『切り裂く瞬間、はだける素肌』、その一瞬にこそ、この奥義の全てがあるのですから。ゆえに、まず切り裂く前に着衣の状態の姿を、様々なポーズとアングルで大量に撮影して保存した上で」
「もう、いいです。妄言はそこまでにしておきなさい」
正座したまま熱弁を振るうパティを、シェルシェは制止した。
「話はここからが肝心なのですが」
「あなたの言っている事は、詰まる所、偏った趣味の持ち主が、『裸より着衣の方がそそる』、と言っているのと変わりません」
「それは偏ってません。むしろ正統派ではないかと思わ」
「お黙りなさい」
シェルシェに一喝され、変態と言う名の淑女ことパティは、石化の魔法をかけられたザコモンスターの様に沈黙を余儀なくされる。
おそらくあと数ターンは動けない。