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いざ試合が始まると、その巨大な体躯から繰り出される豪快な一撃を以て対戦相手を圧倒するミノン。
先の大会でのデータを分析されて対策されていても、そんな事は関係ないと言わんばかりに、この巨大怪獣は順調に勝ち進み、やがて大会中盤で同じく順調に勝ち進んできたエーレとの令嬢対決に至り、場内のテンションは一つのピークを迎える。
「マントノン家の大会じゃ、エーレはミノンに突きを食らってやられたけど、また、『ぐえっ』、ってな感じに喉を突かれて終わりかな」
「流石に同じ負け方はしないだろ。でも本当に痛そうだよな、アレ」
主にちっちゃい子の喉の心配をする観客達の前で、当のエーレはいつもの様に、左の短剣を前に突き出し、右の長剣を頭上高く振りかぶって、ミノンの突撃を待ち構えた。
これに対し、ミノンは頭上高く上段に振りかぶって構え、前後に少しずつ位置を変えながら、突撃のタイミングを慎重に見計らっている。
と、不意に気合の声と共に飛び込んだミノンの、エーレの頭部を狙って振り下ろす電光石火の一撃を、エーレは長剣で受けつつ、逆にこちらからも相手の懐に飛び込み、短剣でミノンの喉を突いた。
この見事なカウンターの突きをもろに食らったミノンは、勢い余って背中から仰向けにぶっ倒れ、審判も文句なく一本を認める。
「すげえな、リアル巨人狩り」
「いやこの場合、巨大怪獣退治だろ」
「短剣の突きで一本取ったの、初めて見たわ」
ちっちゃなエーレが巨大なミノンを文字通り倒した事に、場内も大いにどよめいた。
ミノンはすぐに、がば、と跳ね起き、いそいそと開始位置に戻って行ったが、その挙動には倒された事によるダメージも動揺もなく、近くでこの試合を見ていた他の選手達の一人は、
「ものすごく嬉しそう。何かもう、『この強敵と早く試合の続きがしたくてしょうがない』、って顔で」
と、防護マスクの下の巨大怪獣の笑顔を表現する。
「もしくは、遊びたくてしょうがない大型犬って感じかもー」
同じく近くで試合を見ていたふわふわお嬢様コルティナがこれにコメントを加え、それを聞いた選手達は皆、一瞬ミノンが落ち着きのない大型犬に見えたと言う。