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マントノン家の大会で中学生の部に初出場で初優勝を飾ったミノンが、そのまま勢いに乗って二冠を達成できるのか、と世間の注目を集めるこのレングストン家の大会において、その注目の当人はプレッシャーをさほど感じている様子もなく、開会式前の選手控室では、同じく優勝候補のエーレ、コルティナとひたすら明るく談笑し、
「パティとエーレさんの二刀流対決を、ぜひ見てみたいですね」
今日の試合に直接関係ない話題でテンションを上げていた。
ちなみにミノンは、先日マスコミの前でパティがエーレに堂々と痴漢行為に及んだ事には、全く気付いていない。
「パティは怖い相手だから、当分その機会がない事にほっとしてる所よ」
何が怖いのかは具体的に言わず、はぐらかすエーレ。まさか試合後のセクハラが一番怖いとは言えない。
「はっはっは、ご謙遜を。エーレさんの華麗な二刀流を見ていると、私も二刀流で戦ってみたくなりますが、やはり慣れている一刀流に比べると余技の域を出ない腕なので」
「普通はそうよ。私だって、いきなり慣れない一刀流でやれと言われたら、難しいもの」
「一刀流と二刀流の両方いけるパティは本当に器用だよねー。見事に対策の裏をかかれて、ウチの選手は総崩れだったよー」
二人の会話にコルティナがふわふわと入って来る。
「奇策が功を奏しましたが、二度と同じ手は使えません。次のララメンテ家の大会こそ、パティの正念場と言った所でしょう」
「身内の情報を、そんなに簡単にバラしちゃダメだよー」
「はっはっは。大丈夫ですよ。実の所、あの子が次の大会に一刀流で出るか二刀流で出るのかさえ、私には知らされていません」
「信用されてないんだねー」
「知らない情報は、バラしようがないものね」
屈託なく笑うミノンを見ながら、コルティナとエーレは妙に納得した。