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マントノン家の屋敷に戻り、変態モードから剣士モードに切り替わったパティが、執務室の机の向こうで椅子に悠々とした態度で座っている、当主にして姉のシェルシェに改めて試合結果を報告し、深々と頭を下げた。
「力及ばず決勝で敗れてしまいました。ですが、あのナーデルという選手は、エーレ直々の対二刀流の指導を受けていたとの事で、こちらの作戦が裏目に出てしまった格好です」
「頭を上げなさい、パティ。これは仕方のない事です。ナーデルがあれ程の二刀流キラーであった事は、完全に私達の予想外でしたから」
妹の敗北を咎めず、微笑みながらナーデルの技量を賞賛するシェルシェ。
「ナーデルを通して、間接的にエーレの二刀流の怖さの一端を伺う事が出来た様に思います。まだまだ私の及ぶ所ではありません」
「それを実感出来ただけでも大収穫です。あなたとエーレが直接剣を交えるのは、当分先の事ですからね」
「大会後、そのエーレにも挨拶して来ました。マスコミ向けのサービスと、マントノン家とレングストン家との友好関係を世間に示すのが狙いです」
「その映像は私も見せてもらいました。ですが、両家の仲の良さをアピールすると言うより、小さい子にセクハラする変質者の様に見えましたが」
「気のせいです」
「ふふふ。あくまでもシラを切るつもりですか、パティ?」
シェルシェが妖しい微笑みと共に殺気を放つと、パティは先程よりも深く頭を下げ、
「申し訳ありません、シェルシェお姉様。エーレがあまりにも可愛らしいので、つい出来心でやってしまいました」
あっさり白状する。
「あなたがエーレにしていた行為は、女同士でも犯罪ですよ」
「手の甲なのでギリギリセーフではないかと」
「言い逃れを用意してから、痴漢行為に及んだのですね。周到な事です」
「はい、抜かりはありません。出来れば掌で直接服の下のふくら」
「私について来なさい、パティ」
シェルシェは執務室を出て、パティを地下倉庫まで連行すると、その冷たい床にパティを正座させた上で照明を消し、
「当主命令です。私がいいと言うまで、ここでそのまま反省していなさい」
と暗闇に向かって言い残し、外側から扉に鍵を掛け、そのまま平然と執務室に戻って行った。