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エディリア共和国の剣術界は大きく三つの流派に区分される。
まず剣術人口の約半分がマントノン家、続いて二割がレングストン家、そして一割がララメンテ家となっており、残りを数多の小さな流派が占めているのだが、全国規模で大会を開催出来る力があるのは、この上位三流派に限られていた。
シェルシェが最初に参加を決めたのは、レングストン家の大会である。
マントノン家の長女にして大会優勝者が乗り込んで来たとあっては、さぞ対抗意識を燃やして色めき立つかと思いきや、当のレングストン家では、
「お手並み拝見と行きましょう」
と、至って冷静なもの。
実を言えば、元々この三流派はそれほど仲が悪い訳でもなく、それぞれの道場生が他流派の大会へ参加する事も珍しくはない。
ただ傾向として、いずれの大会でも外部からの参加者が上位に食い込む事は稀である。やはり、それぞれの試合形式やルールの差異による影響は大きいらしい。
「しかし何と言っても、あのエフォール・マントノンの姪だ。油断はしない様に」
「あのボンクラ当主の娘だ」、と言わない辺りが微妙に優しい。もしくは、当主の存在自体眼中にないのかもしれないが。
そして大会当日。選手控室に姿を現したシェルシェ・マントノンは、レングストン家の道場生達の注目を集める事になる。
「きれいだなぁ」
「おとぎ話に出てくるお姫様みたい」
「あんなに優しそうに笑ってる子が、強いなんて信じられない」
この名家のお嬢様を、皆が遠巻きにして見惚れていると、
「久し振りね、シェルシェ」
と声を掛け、そちらへずかずかと近寄って行く女の子がいる。レングストン家の次女、エーレ・レングストンである。
「あ、ウチのお嬢様だ。相変わらずかわいいなぁ」
「ギャルゲーに出てくるツンデレ担当みたい。ツインテールだし」
「今は少しツン期っぽいね。デレる所も見てみたい」
同じ名家のお嬢様でも、ややマスコット的な扱いのエーレだった。




