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その後、ナーデルは優勝インタビューに、あたかも長湯でのぼせた人の様に顔を真っ赤にして、どこか夢見心地で、しどろもどろに応え、
「無名の選手が今大会一番の強豪を仕留めたんだから、ああして舞い上がるのも無理はない」
と、観客達から多くの温かい拍手をもらっていたが、
「ナーデルはパティさんに悩殺されたに違いない」
「エロい抱き付き方してたよね」
「そっちの気がある人なのかしら」
健闘を称え合うと見せかけてナーデルの心と体を弄んでいたのを間近で見ていた選手達は、思春期の女の子の妄想の遥か上を行くパティの本性に薄々気付いていた。
ナーデルは、試合中より試合後に受けたダメージの方が大きかったらしい、と。
一方パティは、負けたにも拘わらず妙に顔がツヤツヤとしており、インタビューの様子だけを比較すれば、むしろこちらの方が勝者の様にさえ見える。もしくは、試合に負けて勝負に勝った、と言うべきか。
「皆さんのご想像の通り、ナーデルさんが二刀流に慣れていたのが私の敗因です。敗れはしましたが、二刀流の使い手の一人として、いい勉強をさせて頂きました」
素直に負けを認めるパティの清々しい態度から、その禍々しい本性を見抜くのは容易ではない。
次のララメンテ家の大会には、一刀流と二刀流のどちらで出場するのかと、記者に問われ、
「それは秘密です」
茶目っ気たっぷりにおどけて答えるパティにどっと笑う観客達は、その道化の裏に隠された変態性に気付かない。
しかし、その変態性に気付いていたエーレは、
「ミーティングで選手達に、パティに気を付ける様、警告しておかないと」
小さい子供を持つ母親の様な心配をしていた。
見た目は自分の方が小さい子であるが。
また、同じく変態性に気付いていたコルティナは、
「ウチの大会では、逆に色仕掛けでパティに迫る様に選手達にアドバイスしてみようかなー」
などと冗談を言い、普段が普段なので冗談に思われず、周囲から叱られていた。