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大会で活躍する二刀流のエーレの姿に刺激され、
「自分も二刀流をやってみたい」
と、希望してレングストン家の道場に入門する者が増えたが、その大半が、
「やっぱり、一刀流の方が人が多いから」
と、すぐに宗旨替えしてしまう傾向にあった。
エーレとしても二刀流人口を増やしたくて色々頑張っているのだが、いかんせん指導出来る者が少なく、次第に一刀流に流れてしまい、ますます指導者が育たなくなるという負のスパイラルに陥っている。
そこへ今回、マントノン家からパティが二刀流で、レングストン家の大会に乗り込んで来た事に、実の所、エーレは敵対心よりは仲間意識を強く感じており、事情を知らない観客達の、
「これは、レングストン家というより、エーレ個人に対する挑発だな」
などという邪推は外れていた。
「この前はコルティナをディスって、今回はエーレだ。どんだけ煽っていくスタイルなんだよ、あの大道芸人」
そんなパティへの誹謗についても、当のエーレは、
「パティはそんな安っぽい悪役令嬢じゃないわ。でも誤解を解くには、試合を見た方が早いでしょうね」
と、異議を唱えつつ予言する。
そして始まった最初の試合開始直後、パティは左の短剣で相手の振り下ろす剣をガードしつつ、右の長剣で相手の左手を打ち、綺麗な一本を取ってみせた。
そこにはおふざけの要素など欠片もなく、真剣にたゆまぬ修練を積んだ者だけが持つ技の冴えがあった。
大道芸人たるもの、数あるレパートリーの一つ一つに心血を注いでいるのは当然であり、一つの技を人前で披露するまでには、膨大な量の稽古が必要とされるものである。
一瞬で観客達の度肝を抜いた後、試合再開と同時に、パティは素早く前方に飛び込んで長剣を相手の頭部に素早く打ち込み、あっと言う間に試合終了。
喝采が沸き起こる中、エーレは冷静に、
「これで二刀流人口が増えてくれるといいんだけど」
と、ぽつりと漏らした。