◆181◆
「小、中学生の二つの部をまたいで、三年連続大会優勝か。パティに続いて、ミノンも実によくやってくれた」
マントノン家の屋敷の書斎で、当主シェルシェから大会の報告を聞きつつ、嬉しさを隠せない様子の祖父クペ。
「優勝以上に、レングストン家のエーレ、ララメンテ家のコルティナに、初顔合わせで勝利した事の方が重要です。もちろんあの二人の事ですから、まだまだ油断は出来ません」
微笑みを浮かべつつも、完全に楽観はしていないシェルシェ。
「この大会で得たミノンの情報を、すぐにフィードバックして対策して来るだろうな。昨年が正にそのパターンだった」
「ええ、他家の大会での不利な状況は、今年も変わらないと思います」
「それぞれの家の選手が他家の大会で得たデータを元に対策を立て、自家の大会を他家の侵略から守り切る、そんな流れが今後も定着しそうだな。二冠、三冠といった派手な展開は、もう見られないのかもしれん」
「ふふふ、以前私が三冠を達成出来たのも、『単に時代がよかったから』、とお思いですか、おじい様?」
「いやいや、祖父バカかもしれんが、お前なら今でも三冠制覇の可能性はあると見ている。決して、エーレ、コルティナに引けは取っておらん」
そう言ってクペは椅子に深く背をもたせかけて、天井を仰ぎ、
「ミノン、パティも才能のある子だが、お前の剣の才能は群を抜いている。もしお前が当主を継がず、あのままずっと大会に出場し続けていたら、どんなに華麗な試合を見る事が出来ただろうか、と、つい想像してしまうよ」
祖父バカが高じて、妄想モードに突入するおじいちゃま。妄想のタイトルは「孫娘無双」で決まり。
「身に余るお褒めの言葉を頂き、光栄の至りです。ですが、実際に試合に出て戦えない者に、可能性云々を語る資格はありません。今の私に出来るのは、戦える者に託す事だけです」
そんなおじいちゃまを微笑ましく見守りつつ、少し寂しげな笑みを浮かべるシェルシェ。
「ミノンとパティは、お前の目から見てどうだ? 期待に応えてくれていると思うか?」
「ふふふ、単なる強さだけでなく、人々を魅了する事においても、十分に応えてくれています。あの子達にはこの先、剣以外の分野でも活躍して欲しい事があるのですが、この分なら上手く行きそうです」
「はは、アイドルにでもするつもりか。以前、そんな話もしたな」
「ええ。手始めに私が先陣を切ります」
「何?」
「化粧品会社から私にCM出演のオファーが来ているのです。まだ非公式で、今すぐという訳ではもりませんが、『若い女性にアピールする』という、マントノン家の戦略と照らし合わせて考慮しても、いい話ではないかと思っています」
瓢箪から駒の様な話に思わず言葉を失うクペを見ながら、シェルシェは妖しく微笑んだ。