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「お姉さん、元気にしてるー?」
「はっはっは、あそこの主催者席で元気にしてますよ、ほら」
決勝戦終了後、健闘を称え合うと見せかけて、全く関係ない話に興じるコルティナとミノン。
「シェルシェもあんな所で座って見てないで、今すぐにでも、ここに来て戦いたいだろうねー」
「流石にそれは無理です。でも、もしそんな事になれば、私を瞬殺して優勝してしまうでしょう」
「うふふ、シェルシェの剣は衰えてないんだねー」
「衰えるどころか、益々研ぎ澄まされています。今度屋敷に遊びに来る時は、ぜひ剣と防具を持参してください。稽古場で一戦交えれば、たちどころに納得されると思います」
「公式大会以外の他流試合は、マントノン家もララメンテ家も原則禁止されてるよー」
「そこは内緒で」
「だめだよー。特に当主ともなると立場があるからね。それが許される位なら、シェルシェは最初からこの大会に出てるよー」
そこで二人は、主催者席で営業スマイルを浮かべているシェルシェの方を見た。
まだ中学三年生ながら、すっかり当主の貫録をそなえたシェルシェは、試合場の二人からはどこか遠い存在になってしまった様にさえ思われる。
「残念です。私もコルティナさんとまだまだ戦いたかったのですが」
「今年の大会はあと二つ残ってるからね。運がよければ、また戦えるよー」
「ええ、ぜひ……あ、シェルシェが『そろそろ終わりにしなさい』と目で言ってます。とりあえず、この辺で。続きはまた控室で」
「じゃ、またねー」
主催者席から放たれるシェルシェの眼力に気圧されて、二人は話を中断し、試合場を後にした。
結局健闘は称え合ってない。




