◆171◆
書斎に着いたシェルシェとパティは、手を繋いでいた小さなヴォルフを祖父クペに向けて発射。
「おじーちゃー」
と言いながらとてとてと歩いて来るヴォルフを、おじいちゃまは椅子から立ち上がって出迎え、満面の笑みでこれをキャッチして抱き上げる。
「おお、よしよし。お姉さん達と一緒に来たのか」
「ふふふ、ヴォルフにも大会についてのお話に参加させようと思いまして」
「はっはっは、次期当主としての教育はもう始まっているのか。じゃあ、ヴォルフもこっちに座って、お姉さん達の報告を聞こう。まずは優勝おめでとう、パティ」
ヴォルフを膝の上に乗せて元の椅子に座るクペ。
「ありがとうございます、おじい様。何とかお姉様達に続く事が出来ました」
パティが少しかしこまって応えたが、自分の優勝より、おじいちゃまの膝の上のヴォルフの方が気になっているのは明らかだった。
「この調子で残りの二大会も頑張るがいい。とは言うものの、今大会で手の内を晒した以上、レングストン家もララメンテ家も、お前の事を分析して重点的に潰しにかかるに違いない。慎重に戦うのだぞ」
「はい、分かっています」
「ふふふ、実の所、パティはまだ全ての手の内を晒してはいません。温存している持ちネタで飛びっきりのものを、次回に披露する予定です」
シェルシェが口を挟む。
「アレをやるつもりか」
「はい、レングストン家の大会では優勝する事にこだわらず、パティの実験場として活用させてもらうつもりです」
「ふむ。だが、ふざけていると取られなければよいが」
「これは立派な戦略です。パティへの対策の裏をかく意味もあるのですから」
「で、パティ、上手くやれそうか?」
「剣術の試合に『絶対』はありませんが、マントノン家の名に恥じぬ戦いをして見せる事だけは保証出来ます」
言っている事は格好いいが、パティの目はヴォルフの可愛らしい仕草にずっと釘付けになっていた。