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「最近のエディリアの剣術の試合では、相手のデータを分析して戦う事が重視される余り、無心かつ全力でぶつかって行く事や、自分の持ち技を見せる事を、つい控えてしまう傾向があるのではないかと思っています。確かに、『敵を知り、己を知らしめない』事も武芸として大切ですが、それに囚われて、個人が本来持っている才能を伸ばせるせっかくのチャンスを潰す事に繋がりはしないかと、危惧しています」
優勝後のパティのインタビューを簡単に言い直せば、
「私は相手の弱点を分析してそこをちまちま狙う様な、しょっぱい試合は好きじゃありません。もっと一人一人の持ち味を活かして、それを成長させられる様な試合をやりましょうよ」
という事であり、常々面白い試合を見たいと願っている観客も、「その通り!」、とばかりに喝采を送った。
これはあからさまに、データ分析主義のララメンテ家、さらに絞り込めば分析魔のコルティナをディスった発言であったが、当のコルティナは、
「うふふ、パティは気配りの出来る子だねー。自分の所の大会が終わっても、ちゃんとウチの大会まで注目が集まる様に配慮してくれてるー」
と、その真意を見抜いており、周囲にいた道場生達も、
「さっすが、大道芸人。マイクパフォーマンスもお手の物かあ」
「これで、パティ対ララメンテ家の構図が出来て、二冠、三冠抜きでも、お客さんの関心が集まるわ」
「それに引き換え、ウチのお嬢様のマイクパフォーマンスは、ひどいからねえ」
と、パティに対して特に反感は抱かなかった。
「あー、ひどーい。私だって色々考えてるんだよー」
最後の言葉に反応し、抗議してるのかしてないのか分からないふわふわした口調で抗議するコルティナ。
「あのね、優勝インタビューってのは、無理に笑いを取ろうとしなくていいの」
「しかも、滑ってるし。さらにその滑った事で起きた笑いで自信を持っちゃダメよ。反省しなくちゃ」
「大会の宣伝をするにしても、もっとさりげなくやらないと。商売っ気を出し過ぎると、反感を持たれかねないから」
それに対して、一斉にダメ出しを始める道場生達。
しばらくの間、この不毛な議論は続き、
「いざお客さんを前にして、そんなかしこまった『芸』が通用すると思ったら大間違いだよー。稽古場では勝てるかもしれないけど、真剣勝負で斬られたら、意味はないんだしー」
と、コルティナが訳の分からない独自のお笑い論を一席ぶち始め、ついに収拾がつかなくなってしまった。
「見て、ララメンテ家の人達が今度は何か議論してる」
遠くからこれを見ていたレングストン家の道場生達は、「おそらくパティの挑発的な発言が、物議を醸しているのだろう」、と推測したが、
「どうせ、コルティナがまた訳の分からない事を言って、皆を混乱させているのよ。放っておきなさい」
一人エーレは真実を冷静に見抜いていた。