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「見て、ララメンテ家の人達が、何だか意気消沈してる」
「自分の所の選手が、あっけなくやられていくのが、そんなに計算外だったのかしら」
「今大会は、パティの情報収集と割り切ってたんじゃなかったの?」
観客席にいたララメンテ家の道場生達がいつもと違う異様な雰囲気になっている事に気付き、レングストン家の道場生達が、つい首をかしげる。
「コルティナが、また人心を惑わす様なおかしな事を皆に吹きこんだんでしょう。気にするだけ無駄よ」
しかし、それを一刀両断するエーレ。大抵の事はコルティナのせいにすれば片が付く。
「そんな事より、気を付けなきゃいけないのはパティの方よ。コルティナがデータを収集しに来ている事は百も承知で、惜しげもなく手の内を晒している様に見えるわ。まるでわざと見せ付けているみたいに」
エーレの言葉通り、試合でのパティは相手に応じて戦い方を次々と変えて行き、静動、緩急、攻防を自由自在に組み合わせた多彩な技を、これでもかとばかりに披露していた。
また、時にはシェルシェを彷彿とさせる華麗な剣捌きを、時にはミノンを思わせる豪快な一撃を見事に決め、姉達の技をその身に受け継いでいる事を証明し、その二人を知る観客達を大いに沸かせてみせる。
圧倒的な技量の差を見せつけられた対戦相手達は、戦う前から呑まれてしまい、本来の実力が出せないまま、気が付けばパティの引き立て役に終わってしまう。
こうして、すっかりパティ大サーカスと化した大会は、当然のごとくパティが軽々と優勝して幕を閉じた。
「『魅せる試合』をする事に関しては、三姉妹の中でパティが随一だねー」
一部始終を観察していたコルティナは、最後にそんな感想を述べ、
「パティのおかげで、今年も小学生の部の大会は大入り間違いなしだよー」
ショービジネス的な意味での成功を確信し、周囲の仲間達にもそれを伝える。
「優勝した訳でもないのに、ララメンテ家の人達が嬉しそうに笑ってるんだけど」
レングストン家の道場生の一人が、不思議そうにそう言うと、
「どうせコルティナの仕業よ。深く考えても仕方ないわ」
エーレはそう答えて、やれやれといった表情になるのだった。




