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その後もパティは苦戦らしい苦戦もないまま、いずれの試合も一分以内で勝利し、あまりにも綺麗に一本を決めて行くので、一時は観客達の間に八百長疑惑まで出る程だったが、
「マントノン家の選手相手ならともかく、レングストン家やララメンテ家の選手にも同じ様に綺麗に勝ってるから、それはないだろう」
「八百長なら、普通こんな見事な勝ち方はしない。逆にもっと長引かせて、さも苦戦してる様に見せかけるはずだが」
「まだパティに関するデータが少ないからこうなるんじゃねえか。特にデータ分析がお家芸のララメンテ家にとっちゃ、一番苦手な相手だ」
と、すぐにその疑惑は解消し、何より一つ一つの技の冴えをその目で見れば、パティが普段から恐るべき修練を積んでいる事も明らかだった。
「主催者席に座ってるシェルシェが、特撮ヒーローものに出てくる悪の組織の幹部の顔になってるよー。『今度の怪人は一味違うぞ』って言いたげに」
双眼鏡を覗き込んでいたコルティナがおかしな事を言い出し、その言葉につられて周囲にいたララメンテ家の道場生達もシェルシェの方を見れば、なるほど確かに、自ら手塩に掛けた怪人の活躍を眺めてご満悦の悪の組織の幹部の顔だ。
パティの育成に当たっては、姉にして当主のシェルシェと、もう一人の姉のミノンの指導はもちろんの事、叔父のカリスマ剣士エフォールも一枚噛んでいるかもしれない。
十一歳のパティにとって、こんな濃いメンツから日々指導を受け続けるのは、大昔の少女小説に出て来る、サーカス小屋に売り飛ばされてムチで芸を仕込まれる哀れなヒロインの気持ちだったのではないだろうか。
そんなレトロな光景を勝手に想像しつつ試合に目を戻せば、またもやパティが相手から巧みに一本を奪って勝利した所であり、歓声が沸き上がる会場の中で、
「さぞや苦労したんだろうねえ、あの子」
と、観客席のそこだけが、妙にしんみりとしてしまっていた。