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「私は何も手を下していません。あの人達が勝手に自滅しただけです」
一歳児のヴォルフと共に書斎を訪れたシェルシェは、早速椅子から下りてこの可愛い孫と戯れ始めた祖父クペに、離脱派の経営破綻について簡単に報告した。
「思ったより早かったか。思ったより早いと言えば、ヴォルフは本当に成長が早い」
現在おじいちゃまの頭の中はこの可愛い孫の事で一杯であり、突然マントノン家を飛び出した恩知らず達の事など、机の脇のくずかごの中に捨てられているくず位の関心しかない。
「むしろ、もう一年位頑張って悪役を引き受けてくれた方が、こちらも何かと都合がよかったのですが」
そう言って微笑むシェルシェの方が、悪の組織の女幹部に見えない事もない。
「あれだけ不祥事が続けば、もう立ち直れまい。たとえ優れた剣の才能があろうとも、いや、才能あるが故にそれに溺れ、身を持ち崩してしまう輩は結構多いのだ。ヴォルフも気を付けるのだぞ」
まるで言葉の意味が分かっているかの様に、「あーい」、と答えるヴォルフの可愛さに、だらしなく笑うおじいちゃま。
クペの言う通り、破綻した新流派の負債をほとんど一人で背負う形になったグルーシャ代表は、もはや八方塞がりの状況に陥っていた。
離脱した時の威勢のよさは今や見る影もなく、ついにはプライドをかなぐり捨て、後足で砂をかける様にして出て行った当のマントノン家に、「もう一度復帰させて欲しい」、と何度も願い出る始末だったが、当主シェルシェはこれに全く取り合わず、面会する事さえ認めない。
かつて新流派の旗揚げの際には、シェルシェからの面会の申し入れを拒絶したグルーシャが、今や逆にシェルシェに面会を拒絶されるという、非常に分かり易い「ざまぁ」な構図を、当然マスコミはここぞとばかりに取り上げる。
マントノン家の屋敷の前で、「当主に会わせてください」、と守衛に訴えるグルーシャの情けない姿がテレビに映し出され、それだけでも面白過ぎるのに、ついに地面に跪いて土下座に及んだ挙句、通報を受けてやって来た警察に連行されるというコントの様な展開に、お茶の間は大爆笑だった。