◆16◆
ただただ落ち込む弟エフォールに掛ける言葉が見つからず、しばらく考えた末にスピエレは、
「剣術が上手く出来なくなっても、生きる資格がなくなった訳じゃない。もしそんな事になったら、俺なんかとっくの昔に親父に絞め殺されてるよ」
と、間の抜けた事を言う。
「それにお前は昔から頭も良かったじゃないか。今、マントノン家は政府の復興計画に参加していて、ものすごく忙しいんだ。お前が手伝ってくれれば、ものすごく助かる。
「俺はこんなボンクラでも一応当主だから、色々な会議に出たり、ややこしい書類に目を通したり、マントノン家の意見をまとめた案を提出したりと、何が何だかよく分からないまま、とにかく何とかやり過ごしてる有様だ。そんな風にいい加減だから、役員達から毎日何かしら小言を言われてるよ。
「でもお前ならもっと上手くやれると思う。そんな訳だから、早く復帰してくれ。ああ、でもリハビリはじっくり時間を掛けないといけないか。
「やっぱり、今言った事はナシだ。お前は当分何もしないで、リハビリに励め。義足の技術も日進月歩らしいから、医者と相談してどんどん最新式の奴を採用するんだ。実家が金持ちだと、こういう時都合がいいな。
「お前を見てると、体より心の方が参ってしまってるんじゃないか、とつくづく思うよ。不謹慎かもしれないが、この際、長い休暇をもらったと思って気楽に過ごせ。お前は根が真面目だから、その位で丁度いい」
とりとめのない事をまくしたてて、スピエレは何とか弟を励まそうとするのだが、エフォールはそれに対して否定も肯定もせず、兄の顔をしげしげと眺めながら、
「兄さん、今忙しいのか」
とだけ尋ねた。
「ああ、今日も会議があったんだけどすっぽかした」
「ここへ来る為だけに?」
「こうでもしないと、いつまで経っても見舞いに来れそうもなかったから」
「役員に怒られるぞ」
「どうせ、会議に出たとしても怒られる」
兄が真顔でそう答えるのを聞いて、エフォールは思わず笑ってしまった。
「兄さんは昔から、何事も一生懸命やってるのに上手く行かなくて、怒られてばかりだった」
「ああ、もう何かに呪われてる感じだよ。って言うか、お前も一緒になって怒ってたじゃないか」
そう言いながらも、ようやく弟が笑顔を見せた事に、スピエレは内心ほっとする。
エフォールは少し沈黙した後で、
「たとえ報われない結果に終わったとしても、努力し続ける事は尊いんだな」
しみじみとつぶやいた。
「褒めてるのかバカにしてるのか、微妙に判断に苦しむ様な事を言わないでくれ」
苦笑するスピエレ。