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エーレとコルティナが帰った後、シェルシェは一眠りして起きたばかりのヴォルフを手土産にして書斎に赴き、祖父クペに次の全国大会の準備について報告した。
「観客の増加を見込んで、小中学生の部の会場は、去年より少し収容人数が多い所に変更する予定です。その他の部は去年と同じままで構わないでしょう」
「全体的に見れば増加しているとは言え、中学生と高校生を境に観客動員数の格差が広がる一方だな。高校生以上でも、スター性を持った選手が出てくれればいいのだが。おお、よしよし」
シェルシェから受け取ったマントノン家の小さなスターをあやしながら、おじいちゃまが答える。
「高校生以上の部にも優れた選手はいるのですが、観客を魅了するには皆いささか地味です。二年後、エーレとコルティナが高校生になるまでこの格差は解消しないでしょう」
「その時はミノンが中学生で、パティが小学生か。上手い具合にバラけたものだ。パティもお前やミノンの後に上手く続いてくれるといいのだが」
「見た目が既に反則級のミノンに比べて、パティは観客に与えるインパクトがやや弱い事は否めません」
「武芸者が観客受けを重視し過ぎるのも何かと問題があるが、マントノン家の三女としてそれなりに話題にはなるだろう。もっとも剣の実力がなければ話にならんがな」
クペの脳裏に息子スピエレが少年だった頃の姿がよぎる。あのボンクラ息子にとって、大会優勝とは手の届かない遥か遠くの空で輝く星の様なものだった。
「ふふふ、パティにはそれまで猛稽古に励んでもらいましょう。ヴォルフ、あなたもいずれは大会に出て、マントノン家の次期当主に恥じぬ成績を残す様、頑張るのですよ」
おじいちゃまの腕の中のヴォルフに、シェルシェが微笑みかける。
「この子の大会デビューは十一年後か。どんな剣士に育ってくれるのか、今から楽しみだ」
孫の将来をあれこれ妄想し出すと、止まらなくなるおじいちゃま。
「この子は『強く、凛々しく』育つ様、私が教育します」
弟の将来を既にがっちり設計し、確実にそれを履行しようと企む姉。
そんな二人からの重い期待を小さな体で受け止めつつ、大人しく話を聞いているヴォルフ。
ヴォルフに限らず、赤ちゃんの双肩には、家族から凄まじい重さの期待が掛けられてしまいがちである。