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エディリア剣術界の名門の三家の令嬢達の膝突き合わせてのお喋りは、やがて次の全国大会の話題へと移行する。
「今年もあなた達二人が三つの大会全てに出場するとなると、それぞれの中学生の部で、昨年以上の観客動員数を見込まなければなりませんね」
シェルシェが言う。
「マントノン家の大会は最初だから確実に増えるよ。でも、そこで私達が敗退すれば三冠への期待が消えて、残りの二大会の観客は去年より減るかもねー」
コルティナが言う。
「だからと言って、不正は論外だけどね。こうしてお互いに他家の大会に出向く様になったのも、元はと言えば、シェルシェが自分の所の不正疑惑を晴らす為だった訳だし」
エーレが言う。
「ふふふ、もちろんどんな事情があろうとも、マントノン家のジャッジは公正にやらせてもらいます。身内だからと言って贔屓はしませんし、外部参加だからと言って不利な判定を下したりはしません。ましてや、観客動員数の為だけに特定の選手を勝たせるなど、もっての他です」
「ただ、どうしても各家で微妙に細かくルールが異なるから、身内有利にはなるけどねー。それはともかく、ウチは今年も去年と同じあの巨大会場を使うつもりだよー。『大は小を兼ねる』で、会場に入れないお客さんが出る可能性は少なくしたいから」
「ウチももう少しキャパの大きい会場を押さえておくべきかしらね。去年と同じ位の観客動員数で、十分ペイ出来るかが問題だけど」
念の為に言っておくと、このシェルシェ、コルティナ、エーレはまだ中学二年生。同じ年頃の男子が人生で一番バカな事をやらかす時期に、自家の開催する剣術大会の観客動員数の見積もりについて相談しているのである。
選手の身内のみが会場に応援に来ていた時代と違い、今や万単位の一般客がこぞって入場チケットを買い求める一大イベントとなった現在、こうした令嬢間のガールズトークが重要な情報交換の場になっていた。
三人の令嬢達は、テーブルの上に置いた紙にまず昨年の各大会の観客動員数を書き、考え得る様々な状況をシミュレーションしながら、今年の予想観客動員数を追加記入していった。この紙は後でコピーを取られて各家に持ち帰られ、大会運営に当たっての貴重な資料となる。
「大体この様な所でしょうね。後はレングストン家とララメンテ家、それぞれの経営陣の判断に任せます」
一通り予想が立った所で、シェルシェが一応の区切りを付けた。
「マントノン家は? これで役員さん達を説得出来るー?」
コルティナが尋ねる。
「『お飾り当主』とか言われて、舐められたりしない?」
エーレも心配そうに言う。
「ふふふ、説得はしませんよ。『あたかも自分達が考えて結論を出したかの様に誘導する』だけです」
そう言って、魔物の様に妖しく微笑むシェルシェ。
ついさっきまで、腕に抱いたヴォルフに微笑みかけていた時とは人相がえらく変わっていたが、コルティナとエーレは慣れているので、別に驚いたりはしなかった。
うん、いつものシェルシェだわ。




