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「子育てでお疲れのお父様とお義母様に、十分休養を取って頂く為に」
という事で、シェルシェはマントノン家の総力を挙げて、弟ヴォルフの養育をバックアップした。
父スピエレ、義母ビーネ、弟ヴォルフの一家三人を屋敷に招いたり、こちらから山奥の住居に赴いたりして、育児に長けた使用人達のサポートの下、疲れた親を休息させる一方で、祖父母と姉達が赤ちゃんの相手をするという、ウィンウィンの関係を築いていたのだ。
「ただしサポートもあまり頻繁過ぎると、却って向こうに気を遣わせてしまいます。それに夫婦で愛情を以て子育てに奮闘するのも、大切な事ですから」
サポートにかこつけて毎日でもヴォルフの顔が見たいと願う、祖父母と妹達に適切なブレーキを掛ける事も忘れないシェルシェ。
「いっそ、三人共この屋敷に住めばいいのではないか」
孫ラヴが止まらないおじいちゃまが提案すると、
「ダメです。まだ当主交代騒動のスキャンダルからさほど時間も経っていませんし、何よりお父様とお義母様は、あの山奥の静かな環境で幸せに暮らしておいでです。このマントノン本家の殺伐とした雰囲気は、二人には向いていないのです」
即座に却下するシェルシェ。
「うむぅ、確かにそうかもしれんが」
納得しつつも、ちょっと未練が残る祖父クペ。
「お父様とお義母様については、今後もマントノン本家の一歩外で隠居して頂き、内政に関わって余計な気苦労に煩わされない様にしておいた方がよいかと思われます。ただし、いずれヴォルフは次期当主として、こちらで暮らす必要がありますが」
「両親から引き離すのか」
「もちろん、両親と定期的に会う機会はちゃんと用意します。その上で」
シェルシェはにっこりと笑い、
「私が責任を以て、ヴォルフを立派な当主に育てます」
姉というより、コーチあるいは犬の訓練士の目になっていた。
もしくは人さらい。