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翌々日、祖父クペ、祖母ヴォレ、そしてシェルシェ、ミノン、パティの三人の姉達は、プリザーブドフラワーの青いバラと白いスズランが入った出産祝い用の白い小さなベビーシューズを持って病院に赴いた。病院によっては生花を禁止している場合がある事を考慮して、これを選んだのである。無論、退院したらもっと盛大なのを贈る予定だったが。
病室でこのマントノン本家の親族五人は、まっ白なおくるみに包まれた小さな生まれたての赤ちゃんと、一通り感動の対面を果たし、出産を終えたビーネに感謝といたわりの言葉を掛けると、
「長居はお義母様のお体に触りかねません。今日の所は、私達はこれで失礼します。お父様、くれぐれもお義母様と弟をよろしくお願いします」
慎重過ぎる程気を遣う当主シェルシェの号令一下、もうちょっと赤ちゃんを眺めていたいオーラが出まくっている祖父母と妹達を急きたてる様に暇を告げた。
「ふふふ、すぐにもっと長く一緒にいられる様になりますよ。今は母子共にそっとしておいてあげるのが大事です」
病院の廊下で皆を諭すシェルシェ。そう言う本人も、本当はもっと長く留まっていたかった事は、親族にはお見通しであった。
病院を後にしたマントノン家一行は屋敷に戻る前に、今は亡きユティルの墓を訪れ、
「喜んでください。お母様の悲願だった跡継ぎの男子が、ついにマントノン家に誕生しました」
と、シェルシェが笑顔で報告した。
「弟が無事に成長する様、あの世からどうか見守ってあげてください」
その言葉を聞いて、思わず涙ぐむ祖父母。年を取ると涙腺が緩くなるのである。
「この世では不肖ながら私がお母様になり替わり、弟をマントノン家の次期当主に相応しい人間に育ててみせます。全力で。絶対に」
亡き母の墓前で、固い決意と共に宣言するシェルシェ。
一方その頃、病室でビーネは、
「なぜかしら、今悪寒が背筋を走った様な気が」
シェルシェの発した強烈な波動を受信したのか、一瞬不安になり、思わず傍らに眠る愛しい我が子の方を見た。
赤ちゃんは波動を受けても平気な様子で、すやすやと眠っている。




