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「おじい様、この様なおめでたい日に涙は似合いません。どうか笑顔で祝賀会へお越しください」
そう言って、祖父クペの背中にそっと手を置くシェルシェ。
「ああ、だが私に果たして笑う資格があるかどうか」
当初息子の再婚に強硬に反対していた事を思い出したのか、少しクペは弱気になっていた。
「あるに決まっています。結局はおじい様も、お父様達の結婚に賛成された事で、今日のこの日があるのですから」
「私の間違いを正して、賛成させたのはお前だがな、シェルシェ」
「ふふふ、意地を張って自分の意見を無理に通そうとせず、改めるべきをすぐに改める事が出来る人を賢者と言うのです。賢者であるおじい様なら、私の言葉をきっと聞き入れてくださると信じていました」
その割には、賛成しなかった場合、私を山奥の別荘に監禁するとか言ってなかったか。
そんな野暮な言葉を呑み込んで、
「お前には敵わんよ」
そう言ってクペはゆっくり立ち上がり、シェルシェに腕を取られて導かれる様にして、共に微笑ましく祝賀会会場へ向かう。
なぜか孫娘に連行されている様な気もしないではなかったが。
「出産直後は何かと大変です。私達親族は、ビーネお義母様と赤ちゃんが落ち着いてから病院に行きましょう。その際にはお義母様の負担にならない様、面会は短めに済ます様に心掛けてください」
意気揚々と長い廊下を歩きながら、今後の予定について仕切るシェルシェ。
「ところで、おばあ様は一緒ではなかったのですか?」
「着信音が鳴るか鳴らぬかの内に早押しクイズのごとく携帯を真っ先に取って、スピエレから報告を聞いた後、大喜びで大広間にすっ飛んで行ったよ。祝賀会の準備を仕切る為にな」
こういう所は、シェルシェは祖母に似たのかもしれない。
そんな風に、しみじみ思うおじいちゃまだった。