◆147◆
マントノン家の当主となった以上、軽々しく大会に出場など出来ず、親友や妹が華々しく活躍するのをまるで遠い日の花火の様な切なさを以て眺めていたシェルシェであったが、大会が一通り終わってしばらくすると、そんな憂鬱もどこか遠くへ吹き飛ぶ程のイベントが待っていた。
その日、マントノン家の屋敷内で行われていた、いつになく皆そわそわした雰囲気の会議の途中、待ちに待った吉報がシェルシェの携帯を通じてもたらされる。
「無事生まれたよ! 元気な男の子だ!」
隠居して以来、妻をいたわるより他に何もする事がない父スピエレの興奮気味な声を聞いたシェルシェは、それ以上に興奮した声で、
「ありがとうございます! そちらが落ち着き次第すぐに伺います! お義母様には、ゆっくり休養してくださる様、よろしくお伝えください!」
と、答えつつ、歓喜にあふれた表情をして、片手でガッツポーズを決めた。普段の当主からは考えられない挙動であったが、誰も不思議には思わない。マントノン家にとって、これ以上めでたい事はないのだから。
通話を終えたシェルシェが、美少女三百パーセント増しの極上の笑顔で、
「たった今、私に弟が出来ました! これでマントノン家は安泰です!」
と、テンションの高いままその場にいた役員一同に申し渡すと、皆一斉に立ち上がって、
「おめでとうございます!」
「祝福のあらん事を!」
「マントノン家に栄光あれ!」
と、口々に祝いの言葉を述べつつ、盛大な拍手でこれに応える。
「よって、本日の会議はこれで終了とし、申し合わせていた通り、これより祝賀会へ移行します。大広間の方へ移動してください」
シェルシェの号令によって、役員一同は笑顔で会議を放り出し、いそいそと大広間に向かった。
もちろんその日の会議は形だけのもので、むしろ出産報告待ちの時間潰しだった事は言うまでもない。
大広間に行く前に、シェルシェが書斎で待機していた祖父クペを呼びに行くと、可愛い孫にしてマントノン家の正統な跡継ぎの誕生に、さぞ子供の如くはしゃいでいるかと思いきや、おじいちゃまは机に肘を突いて顔を両手で覆い、
「良かった……本当に良かった」
と涙ぐんでいた。
今回の出産について、単純にはしゃぐには色々あり過ぎたのである。